研究課題/領域番号 |
21H01264
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
河野 正道 九州大学, 工学研究院, 教授 (50311634)
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研究分担者 |
高田 保之 九州大学, 工学研究院, 教授 (70171444)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 気液相変化伝熱 / スプレー冷却 / クエンチ点 / 鉄鋼製造 |
研究実績の概要 |
環境制御型スプレー冷却装置の構築を行い,金属試料を加熱する際の表面酸化皮膜成長を防いでの実験を可能とした.純鉄試料のスプレー冷却におけるアルゴン雰囲気圧力を0.1~0.5 MPaで変化させて冷却曲線を得た結果,すべての圧力にて膜沸騰領域および核沸騰領域が観測され,冷却速度の大きな違いは膜沸騰領域で顕著に見られた.圧力が高くなるにつれて冷却速度が高くなり,クエンチ温度も圧力が高くなるにつれて上昇したが,クエンチを経て核沸騰領域となると圧力による冷却速度の差は見られなかった.またスプレー冷却における体積流量密度を増加させると,クエンチ点に達するまでの時間は短縮されるが,クエンチ温度は大きく変化しなかった. クエンチ温度に関しては上向き平板のプール膜沸における整理式にて推算可能かを検討した.これまでに提案されているいくつかの整理式から推算されるクエンチ温度と実験結果を比較検討した結果,Caiらのモデルが良好にクエンチ温度を推算できることが分かった. 実験および液滴衝突モデルに基づく解析により,試料の全放熱量に対する各伝熱形態が占める割合を検討した.雰囲気圧力が0.1 MPaから0.5 MPaに増加すると,伝熱量の合計は約2倍に向上している.さらに膜沸騰領域における単一の液滴による伝熱量を検討すると,実際には液滴と表面が蒸気膜で完全に分離された状態で無く,膜沸騰領域でも一時的に局所的な固液の接触が生じており,この接触が表面から水への伝熱にそれなりに寄与していると考えられる結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り,環境制御型スプレー冷却装置の構築を行い,金属試料を加熱する際の表面酸化皮膜成長を防いでの実験を可能として,実験結果の再現性も良好であることを確認した.本研究はクエンチ点温度に特に着目しているが,1.圧力が高くなるにつれて冷却速度が高くなり,クエンチ温度も圧力が高くなること.2.核沸騰領域となると圧力による冷却速度の差は見られないこと.3.スプレー冷却における体積流量密度を増加させると,クエンチに達するまでの時間は短縮されるが,クエンチ温度は大きく変化しないこと,4.クエンチ温度に関しては上向き平板のプール膜沸における整理式にて推算可能であることなど,貴重なデータが得られたため.
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今後の研究の推進方策 |
鋼材のスプレー冷却過程には膜沸騰領域から核沸騰領域に遷移する急冷開始(クエンチ)点となる温度が存在し,これをいかに制御するかが本研究の課題であるが,より正確な冷却制御を行うには,加熱履歴による冷却特性の変化を把握することが欠かせない.表面の濡れ性はスプレー冷却特性の影響因子の1つであり,これまでに濡れ性が良いほど濡れ限界温度が高くなり,クエンチ点が高くなることが示唆されている.また,これまでの濡れ性の加熱履歴依存性に関する実験より,加熱履歴が濡れ性向上の重要な一つの要因となっていることや温度上昇・下降過程で蒸発挙動が異なることが分かっている.したがって,液滴の温度上昇による蒸発時間への影響や,高温固体表面上の液滴の詳細な挙動の変化を把握することが重要となる.次年度では加熱履歴による表面の濡れ性の変化を調査し,クエンチ現象の素過程である単一液滴の衝突・蒸発過程の詳細な観察を行うために,装置に単一液滴射出ノズルを設置する.ノズルにシャッターおよびシールドを設けることで,ノズル周りを加熱された試料からの熱から防ぎ,液滴の温度上昇を抑えて安定した液温で実験することが重要となる.また加熱履歴による試料表面の性状と濡れ性の変化の原因解明のため,これまで用いてきたラマン分光法に加えて赤外吸収分光やX線光電子分光法(XPS)を用いて試料の表面分析を実施する予定である.
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