研究課題/領域番号 |
21H01267
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
齋藤 明子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 主席研究員 (20426612)
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研究分担者 |
松下 琢 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (00283458)
池上 弘樹 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 専任研究員 (70313161)
和田 信雄 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (90142687)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超低温 / 冷凍機 / 熱交換器 / ナノ多孔体 / フォノン光学モード / ヘリウム量子液体 / 自由度 / 量子コンピュータ |
研究実績の概要 |
令和3年度は、超低温冷凍機革新のための新規熱交換器の仕様設計や要素技術の研究を行い、以下の成果が得られた。 ・高速粒子吐出装置を導入し、多孔を有する球状粒子を高速に作製できる独自技術を構築した。本技術を用いて、均一サイズのAg2Oの粒子作製を確認した。また、超低温域の比熱測定によりフォノン光学モードが比熱に大きく寄与することを明らかにした。 ・超伝導量子ビットが集積化された量子コンピュータでは、大規模化に伴い必要な冷却能力は増加するが、5-10年後の業界目標である100個の量子ビット集積化を念頭に、冷却能力の見積もりを行った。 ・量子コンピュータ等で求められる約10mKを、3He使用量が少なく価格やランニングコストの低い小型3He/4He希釈冷凍機によって実現することを目指し、今年度はTube-in-Tube熱交換器の小型化等に取り組み、最低温は13.6mK、Single Shotにおいて8mKを実証した。 ・10mK程度の超低温では、発熱や熱抵抗を極小にして試料や素子を冷却し、温度や微小信号を測定する技術が必須である。そこで、温度計測について、GraywallタイプのCMN温度計素子と計測ブリッジ回路を開発し、数mKまで十分に早い応答速度と精度で容易に計測できるシステムを設計・製作した。さらに、これを10mK冷凍機開発に適用するとともに、これを用いて超低温域の物性研究を行い成果発表した。 ・要素試験から、ナノ多孔体熱交換器が、同サイズの既存技術の70nm銀微粒子焼結熱交換器に比べて1/10以下の熱流抵抗性能を示すことを明らかにした。これは3He/4He希釈冷凍機に使用する3He資源の大幅低減や、希釈冷凍機の小型化、価格とエネルギー消費の抑制を可能とし、SDGsに貢献するため、WIPO GREEN データベースに登録された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
・令和3年度に導入を計画していた、インクジェット機構で高速に粒子を吐出することが可能な装置をカスタム設計して導入するとともに、多孔を有する球状粒子を高速に作製できる独自技術を確立した。超低温冷凍機の熱交換器に充填するナノ多孔蓄冷材の作製技術に関しては上記のように順調に進捗している。 ・超低温冷凍機革新のための新規熱交換器の仕様設計については、超伝導量子ビットが集積化された大規模量子コンピュータの5-10年後の業界目標である100個の量子ビット集積化を念頭に冷却能力の見積もりを行なうとともに、量子コンピュータ等で求められる約10mKを実現するための要素技術の研究を推進し、Tube-in-Tube熱交換器の小型化や、発熱や熱抵抗を抑えた温度計測技術、ナノ多孔体熱交換器の有効性の検証など、計画以上の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
医療用MRIの高感度化や、量子コンピュータの冷却応用では、冷却効率が高く、小型で、磁気雑音を抑えた超低温生成技術が希求されている。量子コンピュータ等で求められる10mK超低温冷凍機の市場では、液体4He寒剤を用いずに蓄冷式極低温冷凍機で予冷段を冷却し、最低温生成には希釈冷凍機を用いる方法(所謂ドライ・タイプの冷却)の需要が高い。本研究では、(1)フォノン光学モードの自由度の活用、(2)ヘリウム量子液体の自由度の活用の2つのアプローチから、スピンの自由度を用いない(磁気雑音を抑えた)新しい熱交換器の構築に取り組んでいる。令和4年度は、(1)では、昨年導入した高速粒子吐出装置で作製したAg2O球状多孔体の高密度化に取り組み、冷凍機搭載に必要な機械強度を付与する。また極低温域のフォノン光学モードの自由度を実験で定量化し、その冷凍性能への影響を計算により調べる。(2)では、量子コンピュータ冷却用希釈冷凍機の熱交換器からくる要請と、ナノ多孔体熱交換器の要素試験により得られた設計指針を基に、ナノ細孔を有するナノ多孔蓄冷材の作製に取り組む。試作したナノ多孔蓄冷材の構造を調べると共にヘリウムとの相互作用を評価し、蓄冷材構造の仕様設計にフィードバックする。また、令和3年度に実施した小型希釈冷凍機の要素研究を推し進めて、冷却性能を更に追求する。ここでは、超低温域物性測定(例えばギャップレススピン液体などの熱容量の大きな絶縁体の数mKまでの冷却)や、量子コンピュータの集積化された超伝導量子ビット素子の10mKへの冷却、および数百チャンネルの高周波微小信号ケーブルの10mK空間への導入(熱侵入の極小化)など、応用ごとに求められる技術仕様(冷却能力や到達最低温度等)を検討すると共に、目的に適した希釈冷凍機をカスタム設計・製作できる技術の構築を目指して、冷凍技術の研究開発を進める予定である。
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備考 |
ナノ多孔体熱交換器が、同サイズの既存技術の70nm銀微粒子焼結熱交換器に比べて1/10以下の熱流抵抗性能を示すことを明らかにした。これは3He/4He希釈冷凍機に使用する3He資源の大幅低減や、希釈冷凍機の小型化、価格とエネルギー消費の抑制を可能とし、SDGsに貢献するため、WIPO GREEN データベースに登録された。
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