研究課題/領域番号 |
21H01273
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中野 寛 東京工業大学, 工学院, 准教授 (70433068)
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研究分担者 |
大井 一浩 金沢大学, 附属病院, 講師 (90451450)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 振動モニタリング / 時系列解析 / 顎変形症手術 / 骨切削 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,顎変形症治療のための口腔外科手術において,医師が回転切削器具を用いて顎骨の骨切り手術を行う際,切削工具が皮質骨層(硬質層)から海綿骨(軟質層)に到達する直前でハンドピースを持つ手に感じる感覚の変化を可視化し,安全に骨切り手術を行える手術支援システムを構築することを目的とする.2021年度は,模擬骨被削材による手術シミュレーション用の実験装置を構築し,模擬骨被削材の切削試験を行い,海綿骨到達前後の振動解析を行った.実験に使用した模擬骨被削材は,皮質骨と海綿骨にそれぞれ被削性が近い樹脂材料を使用して製作した.模擬皮質骨プレートと模擬海綿骨の間にアルミ箔製の電極を挟み,電極に一定電圧回路を接続して模擬皮質骨を切削し,模擬海綿骨に到達したとき電極が切断されると電圧が0Vになるとき海綿骨到達と判定した.また,手元の感覚の変化を感じ海綿骨到達と判断したときに手元のボタンを押して,電極切断と比較して判定精度を評価するシステムを構築した.模擬骨を切削するハンドピースは実際に手術で使用するハンドピースと切削バーを使用し,ハンドピースに3軸加速度計を取り付けて,手元の振動加速度を測定するとともに,模擬骨被削材を切削動力計に固定して3方向の切削力を測定した.また,切削音を精密騒音計で測定した.手術熟練医師(研究分担者)と研修医に協力を得て切削実験を行った.測定した時系列データを周波数分析した結果,熟練医師のハンドピースの振動加速度データについて,海綿骨到達前後に回転周波数成分の整数倍成分近傍のスペクトル密度が増加することを確認した.この結果をもとに,回転周波数成分の整数倍成分近傍のスペクトル密度の時系列変化を計算した結果,手元の感覚の変化とスペクトル密度の増加の傾向に非常に良い相関を確認し,このスペクトル密度の変化が海綿骨到達判定指標の1つになることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の研究目標として,①顎変形症治療のための口腔外科手術における骨切り手術シミュレーション用の実験装置および切削中の振動データ計測システムの構築,②実際の手術用切削器具を用いた切削試験を実施し,骨の硬質層から軟質層に到達したときに手元に感じる変化を振動データから評価する指標の導出を挙げ,研究を実施した.人の顎骨に近い被削性をもつ模擬骨被削材を使用し,実際の手術切削器具を用いた骨切りシミュレーション実験装置を構築した.手術熟練医師が模擬骨被削材を切削し,手元の感覚だけで海綿骨到達を判断して切削した結果,模擬海綿骨到達直後に実際の骨と同様に手元の感覚の変化があること,実際の骨を切削する際の感覚に近いことを確認し,手術シミュレーション用の被削材として使用できることを確認した.次に,手術熟練医師の切削中のハンドピースの振動データを周波数解析し,海綿骨到達前後で回転周波数の整数倍成分近傍のスペクトル密度が増加することを明らかにし,このスペクトル密度の変化を海綿骨到達判定指標として,手術熟練医師と非熟練医師(研修医)による模擬骨被削材の切削試験を行い,熟練医師と非熟練医師の判定精度の比較を行った.その結果,熟練医師の軟質層到達前後のスペクトル密度の変化が海綿骨到達前後の感覚の変化に対応しているのに対して,非熟練医師の振動データでは,海綿骨到達前後でスペクトル密度の変化が明確に現れず,手元の感覚の変化も感じないという主観的な結果とよく一致した.以上より,研究は当初の計画通りほぼ順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
① 実際の骨を使用した切削試験による軟質層到達判定精度の評価 歯科医師の研修用に使用され,人間の顎骨の被削性に近い豚の下顎骨を使用して切削試験を行い,前年度に用いた模擬骨被削材の切削試験で軟質層到達時の判定指標として特徴を見出したスペクトル密度の変化を実際の豚の下顎骨でも適用可能か検証する. ② 切れ刃が軟質層到達時に感じる感覚の変化の発現に関与するパラメータの調査 切削工具の掃引条件(掃引周期,振幅など)や切削条件(工具回転数,工具押付力など)を変えて豚の下顎骨や模擬骨被削材の切削試験を行い,スペクトル密度変化による軟質層到達判定精度の比較をすることで,軟質層到達時に感覚の変化を得やすい条件を明らかにする.
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