研究実績の概要 |
口腔外科手術における顎変形症の治療では回転切削器具を用いて顎骨を,骨表面の硬質で密な構造の皮質骨と骨内部の軟質で疎な海綿骨に切断分割し,適切な噛み合わせ位置に調整して再接合する手術が行われている.現状,海綿骨到達の判断は,医師の手に伝わる感覚の変化で判断されており,術者の練度に依存する.海綿骨到達判断の定量的評価指標を確立することは安全に手術を行うことや,研修医の技術指導などの観点から非常に重要である. 2022年度は,ハンドピースの振動加速度のスペクトル成分の変化だけでなく、切削力の変化も複合的に考慮した海綿骨到達判断指標の有効性を調査した。昨年度構築した振動加速度のスペクトル平均による評価指標で海綿骨到達誤判定が発生する場合の改善策として,軟質層到達時,切削バー押し付け方向における切削力が急激に増加する傾向に着目し,スペクトル平均と切削力の増加を同時に考慮することで判定精度の向上を図った.また,昨年度開発した人工骨二層被削材に加えて,人の下顎骨と被削性が近いとされる豚の下顎骨を用いて実験を行い,評価指標の有効性を評価した.さらに,海綿骨に到達した瞬間を検知する電極回路を人工骨二層被削材に新たに組み込んで,術者が海綿骨到達の感覚の変化をどの段階で判断しているか調査した.2022年度に得られた成果は以下のとおりである. ・押し付け方向の切削力の増加を考慮したスペクトル平均のピーク時刻を評価指標に使用することで,人工骨二層被削材および豚の下顎骨における海綿骨到達判定精度が向上することを確認した. ・海綿骨到達の感知は軟質層に到達した瞬間ではなく,ある程度軟質層の切削を進めた段階で感じ取らていることを明らかにした.
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