研究課題/領域番号 |
21H01288
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
平塚 祐一 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (10431818)
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研究分担者 |
新田 高洋 岐阜大学, 工学部, 教授 (20402216)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人工筋肉 / 生体分子モーター / モータータンパク質 / タンパク質工学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、分子レベルから構築される光造形可能なバイオ人工筋肉に、新たに制御分子パーツを設計・導入することにより、印刷・外部操作可能なマイクロロボットを実現することである。最近我々は生体の分子モータを遺伝子工学的に改造することにより、光照射により水溶液中の特定の部位に人工筋肉を造形させることに成功した。この人工筋肉を利用して大きさ数ミリメートルの機械構造を駆動させることに成功しており、マイクロロボットの3次元光造形の可能性を開いた。しかし、これらのデバイスは光照射後の一回の収縮のみで実用化には遠かった。動力源である生体分子モータを光や電気といった人工的な信号で制御するのは困難であったため、制御系は未開拓だった。本研究では、生体分子モータの運動と光信号のインターフェースとなる分子パーツ群を遺伝子工学的に設計・構築することにより、光造形可能で且つ光操作可能な人工筋肉を構築し、生体分子で駆動するマイクロロボットの開発を本格化する。 本年度は昨年度に引き続き、人工筋肉の光制御をめざし構成分子、特に駆動分子であるキネシンを遺伝子工学的に改変した人工キネシンを多数作成し、それらの性質・機能を解析した。さらに、それらの知見を元に植物の光屈性に関与するタンパク質(光センサー部位:LOV2)と融合させた運動制御可能な人工キネシンの作成および解析に取り組んだ。多数作成した変異体のうち、in vitro motility assay において、光照射により運動能を制御できる変異体を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は人工筋肉を可逆的に制御するためにモータータンパク質の一種キネシンを遺伝子工学的に改変し光信号による運動活性を制御できる人工キネシンの開発に取り組んだ。天然のキネシンはその分子内に自己を制御する部位を持っている。この部位は生体内の複雑な生化学的な反応により制御されている。本研究ではこの部位に植物の光屈性(光に向かって成長する性質)に関与するタンパク質Phototropinの光制御部位LOVJαを挿入したキネシン光制御分子パーツの開発を行った。この人工キネシンでは、自己制御部とLOVJα及びキネシンモータードメインを融合した。それぞれのドメイン間を繋ぐリンカー長を調整することにより、in vitro motility assay と呼ばれるキネシンをガラス面に結合させ、微小管をその面上を運動させる運動評価系において、光照射前は野生型キネシンと同様に運動速度を示すが、LOVの吸収波長である470nmの光照射により、微小管をガラス表面から解離させることに成功した。作動条件を検討することにより、至適条件等を見積もった。
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今後の研究の推進方策 |
バイオ人工筋肉で可逆的に駆動するマイクロデバイスのデモンストレーション:本年度の成果から、in vitro motility assayにおいて、キネシンの運動能を光照射によりON/OFF制御できることが可能となった。しかし、制御可能な至適条件は今の所狭く、これまでの人工筋肉の収縮条件ではこの制御システムが十分機能しないことが分かっている。そこで、今後は収縮条件の再検討などにより、人工筋肉を光制御を実現する。収縮・弛緩が可能になった後、シリコーンゴムの一種PDMSで構築した微小構造上にこの光制御可能な人工筋肉を形成させ、その後、光信号により可逆的に動くマイクロデバイスのデモンストレーションを行う。 ・ミオシン・アクチン系モータータンパク質を利用した人工筋肉の開発 これまでモータータンパク質としてキネシン・微小管を利用して人工筋肉を構築してきた。ミオシン・アクチン系の方が収縮力が強い可能性があるため、ミオシンを遺伝子工学的に改変してUV照射によりミオシンフィラメントが形成、人工筋肉が自発的に形成する分子システムを構築する。本年度の成果により、ミオシンの制御系であるトロポミオシン(Tm)、トロポニン(Tn)の大腸菌による発現系を構築した。今後、これらにLOV2を導入した光制御可能なTn/Tm制御の開発に取り組む。
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