研究課題/領域番号 |
21H01298
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
青柳 誠司 関西大学, システム理工学部, 教授 (30202493)
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研究分担者 |
長嶋 利夫 上智大学, 理工学部, 教授 (10338436)
高橋 智一 関西大学, システム理工学部, 准教授 (20581648)
福永 健治 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (30278634)
高澤 知規 群馬大学, 医学部附属病院, 准教授 (30400766)
鈴木 昌人 関西大学, システム理工学部, 教授 (70467786)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイクロナノデバイス / 生体模倣 / 精密部品加工 / FEMシミュレーション / 医療・福祉 |
研究実績の概要 |
熱インプリントとインサート成形を組み合わせた成形手法を提案した。射出成形ではバリやヒケが生じてしまう先端部分を、熱インプリントにより作製する。これを金型内に設置し、根元部分を射出成形することで結合する。この技術をインサート成形と呼び、成形条件の異なる先端部分と根元部分を接合することが可能となる。 本年度は、熱インプリントにより先端部分となるPLA(Polylactic Acid, ポリ乳)製針の作製を行った。高精度光造型装置(分解能 0.2ミクロン)で作製されたマスター形状を、シリコーンゴムで型取りした。この際、前年度問題であった芯棒部分の倒れを防止する方法を考案した。この型をPLAシートに熱インプリントし、蚊と同様に鋸歯状の突起を持ち、先端が三面で尖るランセット形状の中空針の作製に成功した。 研究の進捗の過程で、成形条件を最適化すれば先端部分と根元部分を分割することなく、一度の射出成形でPLA製の針が作製できる感触を得た。本年度はこれに取り組んだ。先端部分の型には金属製のものではなく、PDMS(シリコーンゴムの一種)を用いた。蚊の鋸歯状突起のように、「かえり」がある型から抜けない形状にもゴムの柔軟性により対応可能となる。ゴム製の型を射出成形に用いることは世界発である.本年度は、基礎的な射出成形を行った結果、バリや変形があるものの、針形状の作製に一定の目途が経った。 蚊の針と同様にギザギザ形状の針を前記光造形装置で作製し、回転や振動を付与して、人工皮膚や実験動物の皮膚に穿刺を行った。擬似神経モデルをMEMS技術により人工皮膚に付与することに成功した。非線形FEM(有限要素法)解析により、皮膚内を針が進行する際の穿刺抵抗力や皮膚の応力分布をシミュレーションした。ここにも神経のモデルを取り入れた。神経に影響を与えない針形状や針の刺し方について多数の知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 熱インプリントによる高アスペクト形状の作製法の確立:製品のマスター形状は、高精度光造形装置(ナノスクライブ社 Photonic Professional GT、分解能0.2ミクロン)で作製する。これをシリコーンゴムに転写して型を作製する。前年度の問題点である芯棒部分の倒れを回避することに成功した。この型をPLAシートに熱インプリントし、蚊と同様に鋸歯状の突起を持ち、先端が三面で尖るランセット形状の中空針の作製に成功した。 2) PDMS型を金型の代替とする方法の提案:成形条件を最適化すれば、先端部分と根元部分を分割することなく、一度の射出成形でオールPLA製の樹脂が作製できる。本年度はこれに取り組んだ。製品のマスター形状は、前記光造形装置で作製し、これを転写して型を作製する。先端部分の型と根元部分の型を組み合わせるが、先端部分の型の材料には金属ではなく、フレキシブルなPDMS(シリコーンゴムの一種)を用いる。これにより蚊の針先端のギザギザ形状等、「かえり」がある型から抜けない形状にも、ゴムの柔軟性により対応可能となった。ゴム製の型を射出成形に用いることは世界初である。 3)微細針の先端形状と穿刺方法の実験的検討:前記光造形装置で作製した中空微細針を、人工皮膚(PDMS製、ヤング率は人間の皮膚と同等の0.4 MPaに調整)、および、実験動物(ヌードマウスとラット)の皮膚へ穿刺する実験を行った。前者において、擬似神経モデルをMEMS技術により人工皮膚に付与することに成功した。 4)FEM(有限要素法)解析による検討:大変形と破壊を伴う針の皮膚への穿刺の様子を、非線形FEMソフトウェア(LS-DYNA)を用いてシミュレーションし、実験と同様の穿刺抵抗力の推移のデータを得た。ここにも神経のモデルを取り入れた。神経に影響を与えない針形状や針の刺し方について多数の知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1) インプリントによる高アスペクト形状の作製法の確立:引き続き蚊の針のギザギザ形状の作製に取り組む。PLAシートの上に針が出来上がるので、針をシートから分離して金型に組み込む方法を考案する。 2) インサート成形による先端部と根元部の結合:前記熱インプリントにより作製したPLA製の針先端部分を、金型先端に設置し,上型、下型、コアピン(根元部分の穴の作製と、先端部分の穴への樹脂の流入の防止が目的)を金型として用いてインサート成形を行う。 3) PDMS型を金型の代替とする方法の提案:前年度に引き続き型の材料として金属ではなく、フレキシブルなPDMSを用いる。蚊の針のギザギザ形状の負型の作製を行い,これを金型先端に組み込む。これに射出成形を行い前項のインサート成形とは異なる1ショットによるPLA製の針の作製を行う。 4)微細針の先端形状と穿刺方法の実験的検討:引き続き神経モデル付き人工皮膚、動物の皮膚への穿刺を行い、針が確実に皮膚を貫けるか、採血・薬剤注入が行えるかの評価を行い、針先形状の設計および最適な穿刺方法のパラメータの検討を行う。 5)FEM(有限要素法)解析による検討:前記の検討を、非線形FEM解析を用いて、皮膚内を針が進行する際の穿刺抵抗力や皮膚の応力分布をシミュレーションすることにより行う。ここにも神経モデルを取り入れる。 6)人間に対する痛みの評価 :研究が進捗し、無痛を実現できるような針形状、穿刺方法が解明された場合、研究分担者の高澤の監修のもと、群馬ペインクリニック病院にて人間の皮膚を対象として痛みの評価実験を行う。
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