研究課題/領域番号 |
21H01328
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
枚田 明彦 千葉工業大学, 工学部, 教授 (40500674)
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研究分担者 |
廣川 二郎 東京工業大学, 工学院, 教授 (00228826)
永妻 忠夫 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00452417)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | テラヘルツ無線 / 近接無線 / 誘電体 / メタマテリアル / 平面アンテナ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、異なる微小金属パタンを周期的に配置した2つの機能性誘電体層を近接配置した際に生じる電磁カップリング現象を解明し、異種機能性誘電体層の近接によるテラヘルツ波の透過性制御を可能とすることにより、この機能性誘電体層を利用したテラヘルツ帯超高速LANシート通信を実現することである。 本年度は、近接した平面アンテナ間での多重反射を抑制するため、石英基板上に抵抗体 TaN で作成したSplit Ring Resonator (SRR)を試作、平面アンテナ上に実装し、近接した平面スロットアンテナ間での多重反射が抑制可能であることを実証した。また、スロット上の石英基板上にキャパシタ装荷ダイポールアンテナを形成することにより、平面アンテナの放射効率が5dB向上した。石英基板上にサイズの異なるSRRを複数実装した試料を試作して透過特性を評価するとともに、複数SRRの透過回路の構築および電磁界解析モデルを構築した。 次に、低損失誘電体の設計に向けて、使用する材料の物性値を評価した。TaNの導電率の評価に、石英基板上のテストパタンを試作し、その透過特性をネットワークアナライザで評価し、導電率を特定した。また、基板材料となる石英基板およびガラス基板については、THz-TDSでのエリプソメトリ法による評価および基板上に形成したSRRの共振周波数の測定により、これら材料の複素誘電率を評価した。 さらに、誘電体シートでの120GHz信号伝送の低損失化に向けて、誘電体シート形状の伝送損失依存性を、電磁界シミュレーションおよび実験により評価した。誘電体シート幅を4mm以下にすれば、120GHz帯信号のシングルモードでの伝送が可能になり、伝送損失を低減可能であることを明らかにした。また、この誘電体シートに別の誘電体シートを接触させることにより、120GHz帯信号の一部を導波可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
石英基板上に抵抗体 TaN で作成したSRRを表面に実装した平面スロットアンテナを近接して配置し、その透過特性をVNAで評価した。SRR石英基板を実装しないアンテナを10mmの距離で近接した場合、S21は115-135GHz間で25dB以上変動した。一方、SRR石英基板を実装したアンテナを同じ距離で近接した場合、115-135GHz間でのS21の変動は3dB以下となり、平面アンテナ間の多重反射の抑制に成功した。平面スロットアンテナ表面への石英基板の実装によりS21は125GHzで-23dBと低くなったため、スロット直上の石英基板上へのキャパシタ装荷ダイポールアンテナの形成により、S21は-18dBとなった。石英基板上にサイズの異なる SRR を複数実装した試料を試作・を評価し、その透過特性と一致する複数の SRR の等価回路の構築に成功した。 TaNの導電率の評価に、平面線路テストパタンを試作し、透過特性をVNAで評価し、その結果を電磁界シミュレーションの結果と一致するようにTaNの導電率を150,000S/mに決定した。基板材料については、THz-TDSでのエリプソメトリ法による評価などにより、石英基板の誘電率は3.8、ガラス基板の誘電率は種類により3.3~6.7となることが明らかとなった。 誘電体シートでの 120 GHz 信号伝送の低損失化を実現するべく、誘電体シートでのシングルモード伝送が可能な条件を検討した。誘電体シート幅を4mm以下にすれば、シングルモード伝送が可能になり、シート長100mmで125GHzの伝送損失を7dBに抑制するとともに、115-135GHz間でのS21の変動が3dB以下となった。また、この誘電体シートに別の誘電体シートを接触させることにより、接触した誘電体シートに1/20の電波を伝送可能であることをVNA計測により実証した。
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今後の研究の推進方策 |
伝送損失が 10dB/m@120 GHz となる低損失機能性誘電体層を設計するとともに、低損失誘電体層に近接した際に透過特性が 20 dB 以上向上する異種機能性誘電体基板の設計を行う。伝送損失低減には信号伝搬部の損失を低減する必要があるため、誘電体層を加工した形状の伝搬路を検討する。異種機能性誘電体基板の近接による透過性の制御については、誘電体層と垂直に透過する信号の透過性の制御の検討は行われてきたが、誘電体層内を進行する信号の透過性の制御については未検討であった。信号が伝搬する誘電体層に近接させる異種誘電体層に、電磁カップリングにより異種誘電体層に信号を導くパタンと信号進行を止めるパタンを形成することにより、異種誘電体層への信号伝送の効率を向上させる手法の検討を行う。 さらに構築した電磁カップリングモデルを使用した異種機能性誘電体層を試作・評価を実施し、構築したモデルの妥当性、および、異種機能性誘電体層のテラヘルツ帯超高速 LAN シートの適用性を実証する。また、LAN シートに使用する誘電体層の幅は波長の 100 倍以上となるため、誘電体層の伝搬はマルチモード伝搬となるが、このような誘電体層内の伝搬は未解明であった。LANシートに使用する誘電体層の3次元電磁界シミュレーションモデルを構築してシミュレーションを行うとともに、複数の入出力ポートを有する誘電体層を試作し、各ポートでの伝送特性と誘電体層表面の電磁界分布をネットワークアナライザで計測することにより、これらの誘電体層内の伝搬モードを解明し、マルチモード伝搬を利用して複数の送受信アンテナを使用した MIMO 通信による伝送速度の向上を実証する。
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