研究課題
本研究では,超スマート社会を支える将来の通信システムのセキュリティ向上を目指して,不変・不可避な光の量子雑音の存在により信号の盗聴を防ぐ物理レイヤ暗号化を,光有線と電波無線が統合した通信システムにて実現することを目的としている.従来周波数の高い光波においてのみ定量的な安全性保証が実現可能とされてきたこの物理レイヤ暗号化を,申請者が独自に提案した光ヘテロダインを用いた手法により,電波帯のマルチキャリア無線通信に展開する.2022年度(二年目)は,直交周波数分割多重(OFDM)物理レイヤ暗号化多値信号の光伝送と光電変換による電波帯での量子雑音マスキングの実験および理論検討を行うことを計画した.本年度は,昨年度に明らかになった光ファイバ伝送によるペナルティを軽減するために光強度変調器をプッシュ・プル駆動することを検討した.まず送信側のDA変換の分解能がどの程度必要になるかを算出した.その結果,十分なDA変換の分解能を確保するためには,信号帯域を数GHz程度まで狭くする必要性が生じた.そこで,周波数利用効率の高い直交振幅変調による暗号化を新たに導入した.昨年度の理論検討を発展させて,直交振幅変調において安全性を評価する式を導いた.これにより,実験における各種パラメータをどのように設定すれば所望の安全性が実現できるかが明らかになった.実験では,これらのパラメータを用いてOFDM多値直交振幅変調光信号を発生し,10km程度の光ファイバ伝送を行った.フォトディテクタで受信し,電気中間周波数帯で量子雑音マスキングによる暗号化を実現した.暗号の復号を行い,伝送によるペナルティが無視できるほど小さくなることを実証した.さらに,光強度変調器を直接変調レーザに置き換えて,より簡便な送信機構成でも同様の結果を得られることを実証した.以上の成果を光ファイバ通信分野の代表的な国際学会で4件発表した.
1: 当初の計画以上に進展している
二年目に計画していた光ファイバ送受信による暗号化の実験を年度の前半に実施し,昨年度に明らかになった光ファイバ伝送による信号品質への影響を改善することができた.そこで,年度の後半は,送信側の構成を簡素化するために直接変調レーザを用いるという発展的な課題に取り組んだ.より簡便な構成にもかかわらず,短距離の光ファイバ伝送では同等の通信性能を実現することができた.このように当初計画を上回る進捗を得ることができている.
2023年度(三年目)は,量子雑音マスキングにより暗号化した直交周波数分割多重(OFDM)信号の光ファイバ伝送とミリ波帯無線伝送が,光ヘテロダインを用いた独自の手法によりシームレスに結合できることを実証する.ここまで進めてきた検討を用いてシステムの設計と実験評価を行い,有線・無線トータルで高い安全性と十分な信号品質が両立することを示す.最終年度であることから,これらの成果を体系的にまとめて,論文誌への掲載を目指す.
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Proceedings SPIE, Next-Generation Optical Communication: Components, Sub-Systems, and Systems XII
巻: 12429 ページ: 124291G
10.1117/12.2648630