研究課題/領域番号 |
21H01330
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
遊部 雅生 東海大学, 工学部, 教授 (60522000)
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研究分担者 |
山口 滋 東海大学, 理学部, 教授 (40297205)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光通信 / 大容量 / 広帯域 / 光増幅 / 波長変換 / 光パラメトリック / ガス分光 / センサ |
研究実績の概要 |
光ファイバが低損失な任意の波長帯で動作する光増幅器と、1700nm帯における各種環境ガスの吸収分光を実現するため、①新規マルチQPM素子の設計・作製、②2つのPPLN導波路を用いる構成での検証を行った。 本研究の提案しているマルチQPM素子を往復で用いて、励起光の発生とパラメトリック光増幅を従来よりも高効率化に行うためには2つの位相整合ピークを有する波長変換素子が必要となる。上記目的のため2ピークマルチQPM素子の設計・作製を行った。応募者らが考案した分極反転構造に連続的な位相変調を施し、所望の位相整合曲線が得られるように位相変調関数を最適化する方法を用いて2ピーク素子の分極反転構造を設計し素子作製を完了した。また、事前検討で用意していた3ピークマルチQPM素子を光ファイバモジュール化した素子を光ファイバ部で励起光を反射し往復で用いて、励起光の発生とパラメトリック波長変換を実証した結果をOptics Expressに投稿し公表した。 さらに光ファイバの低損失波長領域である1300-1800nmにおいて任意の波長の光パラメトリック増幅を実証するため、励起光の発生と光パラメトリック増幅を個別のPPLN導波路を用いる構成で実験的検証を行った。個別の導波路の温度を変化させることによって、光パラメトリック増幅に用いる素子の位相整合波長と励起光波長の離調を変更することで、1300-1800nmの波長域で光増幅が可能であることを初めて実験的に実証することに成功した。上記の結果をOptics Expressに投稿し公表した。 上記の光波長変換技術を利用して炭化水素系ガスの倍音振動による光吸収が予想される1700nm帯の光を発生するための予備検討を行った。個別のPPLN導波路の温度を適切に調整することにより、1400nm帯の信号光を1700nm帯へ変換できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
励起光の発生とパラメトリック光増幅を従来よりも高効率化に行うための2つの位相整合ピークを有するマルチQPM 素子に関しては、所望の位相整合曲線が得られるように分極反転構造に施す連続的な位相変調の最適化を行う素子の設計を行い、導波路形状の素子作製を完了した。おおむね計画どおりに進展しており、今後SHG過程で発生した励起光を導波路端面で反射させる構造を有するモジュール化へと研究を進める。事前検討で用意していた3ピークマルチQPM素子を用いて原理確認を行い、励起光を一旦光ファイバに取り出してから反射することで1つの素子で励起光の発生とパラメトリック波長変換を行えることを確認しており、今後上記の新規マルチQPM素子と新規構造のモジュール化により光増幅の達成が期待される。 さらに励起光の発生と光パラメトリック増幅を個別のPPLN導波路を用いる構成では、個別の導波路の温度を変化させることによって、光パラメトリック増幅に用いる素子の位相整合波長と励起光波長の離調を変更して、信号光のパラメトリック増幅とアイドラ光への波長変換の実証を試みている。その結果光ファイバの低損失波長帯である1300-1800nmの波長域で光増幅が可能であることを初めて実験的に実証することに成功した。これは将来の光通信の大容量化の可能性につながる成果であり、本研究の有用性を示すことができたと考えられる。以上のように広帯域光増幅の実証についてはおおむね計画どおりに進展していると言える。 さらに上記の実験結果を応用して1400nm帯信号光の波長変換を試みた結果、炭化水素系ガスの倍音振動による光吸収が予想される1700nm帯の発生に成功している。この結果は本研究のガス吸収分光分野への応用につながる成果であり、当初の計画よりも前倒しで進んでいる要素であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1.マルチQPM素子を往路で用いるSHG過程による励起光の発生において、基本波の強度が充分に大きい場合は高い変換効率が得られるため、SHG過程の素子の効率は必ずしも高くなくて良いことが考えられる。一方復路で用いるパラメトリック増幅過程に関してはより高い変換効率が求められる。この考えに基づいて、SHG過程に用いられる位相整合ピークを相対的に小さく抑え、光パラメトリック増幅に用いる位相整合ピークの強度が大きくなる非対称な位相整合曲線を有する素子を設計・作製する。 2.従来は、LiNbO3導波路中でSHG過程により発生した励起光を光ファイバで取り出し、反射させて再び導波路へ入射していたため、励起光の結合損失が大きく、変換効率の低下を招いていた。この問題を解決するため、導波路の片端面に第二高調波(SH光)波長のみを反射するダイクロイックミラーを直接蒸着し、SH光を反射する構造を検討する。2ピーク素子の導波路端面にミラーを形成し、その後光ファイバ入出力型モジュールを作製する。本構成では励起に用いられるSH光が導波路から取り出されることなく、直接反射されるため、従来の原理確認実験で生じていたSH光の損失が大幅に低減される。これにより高い波長変換効率、増幅利得が期待できる。 3.多くの炭化水素系ガスは中赤外波長である3400nm帯において分子振動の基本振動による極めて強い吸収を示すが、高価で特殊な検出器が必要などの課題があり、より簡便な構成でのガスセンシングが望まれている。1700nm帯は3400nm帯の倍の光周波数に相当するため、倍音振動による吸収が期待できる。1400nm帯の波長可変光源を、1700nm帯へ変換した光源を用いて、これまでにこの波長帯における吸収スペクトルが明確になっていないガス種の吸収スペクトルの計測を行い、近赤外半導体レーザを用いたガスセンサの実現可能性を検証する。
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