研究課題/領域番号 |
21H01339
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
佐々木 哲朗 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (20321630)
|
研究分担者 |
坂本 知昭 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 室長 (40311386)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 極微量不純物検出 / テラヘルツレーザー分光測定 / 分子振動帰属解明 |
研究実績の概要 |
前年度までに、モデル化合物としてD-マンニトールを選択し、水溶液中の温度差法によってβ-form D-マンニトール結晶を安定的に成長することを確認した。この結晶の内部に構造同位体であるD-ソルビトールを故意に極微量不純物として添加した試料に対し、テラヘルツレーザー分光スペクトル測定と高性能液体クロマトグラフィを適用することで、テラヘルツ分光による微量検出限界がppmオーダーに達すると共に、テラヘルツレーザー分光スペクトル測定の検出限界が液体クロマトグラフよりも十分下にあることを見出した。このことは、従来にはない新規的な医薬品中微量不純物検出手法としての実用展開に期待が持てる結果である。上記は対象がβ-form D-マンニトール微結晶粉末であったが、単結晶とすることで更に鋭い吸収線を示すことを見出した。鋭い吸収線に開発手法を適用することで更に高い検出感度限界が実現できるので、この事実も重要な成果である。 更に分子レベルでメカニズムが解明できれば、不純物の種類まで特定できる画期的な手法に進化すると考えられる。本年度はそのための第一歩としてβ-form D-マンニトール単結晶に偏光分光測定を適用して、観測スペクトルと量子化学計算結果との照合によって分子振動帰属解明を行った。次の段階ではここに不純物が混入した場合の分子構造と分子振動を決定して、実測されているピーク周波数シフトのメカニズム解明を進める予定であり、本年度までにクラスターPC型ワークステーションを自作構築するとともに、計算パッケージとしてCRYSTAL23を導入した。尚、当初計画で導入が予定されていた機械冷凍機は世界情勢の影響を受けて導入が遅れたものの、無事納品された。本年度は冷凍機を稼働して試料冷却(液体ヘリウム温度)を実現し、常時極低温でのテラヘルツレーザー分光スペクトル測定実現を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最も重要な成果として「従来法である液体クロマトグラフィを超える検出限界感度」が示せているので、順調に進展していると言える。更にこのメカニズムを解明することを目指して分子振動の帰属解明まで進み、次のステップである不純物混入時の分子振動解明に向けての準備も着々と進んでいる。 当初予定していた備品の購入は、半導体供給不足などの世界情勢の影響を受けて購入時期が遅れたものの、代替手段を講じたために、実際の研究計画は初年度から順調に進捗しており、ほぼ予定通りの成果を上げることができている。更に2年度目に予定していた備品も納入され、当初の計画に戻す見込みが立っている。 以上のように、当初の予定を超える成果もあるが、遅れている部分もあるので、(2)おおむね順調に進展している。と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度までに構築した量子化学計算用クラスターPC型ワークステーションを用いて、不純物が混入した場合の分子構造及び分子振動を計算し、現在までに観測されているピーク周波数シフトのメカニズム解明を進める予定である。分子レベルでメカニズム解明に成功すれば、既に検出限界感度で従来方法を上回ることを示してきたテラヘルツレーザー分光測定が、更にその不純物の種類まで特定できる画期的な手法としてその有用性が飛躍的に高まると考えられる。 また、当初初年度に導入が予定されていた機械冷凍機は世界情勢の影響を受けて導入が遅れたものの無事納品されたので、次年度は冷凍機を稼働して試料冷却(液体ヘリウム温度)を実現し、常時極低温でのテラヘルツレーザー分光スペクトル測定実現を目指す。これを実現できれば、手法としてのみならず装置としての優位性を高めることができる。 新規的極微量不純物検出手法の開発は順調に進展していると考えられるが、この手法が広く採用されるには実証例が増えなければならないと考えている。本手法が認知され、賛同者を増やすことが望ましいが、残念ながら本手法を実現できるのは我々が開発したテラヘルツレーザー分光測定装置のみであり、自身で実証例を増やす以外の選択肢はない。そこで、次の実証例としてより高い有用性・実用性を示せる医薬品と不純物として有毒性分子の組合せを探索する。特に、分子量1,000程度のいわゆる中分子医薬品は次世代医薬品として注目されているが、鋭いテラヘルツ分光スペクトル吸収線を示すことを見出しており、有力な候補と考えている。
|