前年度までに、モデル化合物としてD-マンニトールを選択し、水溶液中の温度差法によって成長するβ-form D-マンニトール結晶内部に構造同位体であるD-ソルビトールを不純物として故意に極微量添加した試料に対し、テラヘルツレーザー分光スペクトル測定を適用することで、テラヘルツ分光による微量検出限界がppmオーダーに達すると共に、テラヘルツレーザー分光スペクトル測定の検出限界が液体クロマトグラフよりも下にあることを明らかにしてきた。これによって新奇的な医薬品中微量不純物検出法の実現可能性を確かめてきた。 しかし、実用上大きな問題点は、測定に低温環境が必要な点であり、これによって分析装置としては用いることができるものの、大きな期待が持たれている製剤現場でのモニタリングツールとして用いられる可能性が確かめられていなかった。そこで、本年度は特に室温で約40種類の物質について、高濃度試料かつ低周波数での温度依存性分光スペクトル測定を実施した。尚、低周波数で高いS/Nを得るために非線形光学結晶であるガリウムリン(GaP)サイズや、テラへルツ透過性窓材をより高い透過率材料のものに置き換えるなどの見直しを含めた最適化検討を行って適切な分光測定装置を実現した。この中で物質A(公開不可)は高温でも鋭い吸収線を示すので、製造工程中における不純物混入による劣化モニタリングに適することを見出した。更に、この物質の単結晶を作成して偏光分光測定を適用すると共に、粉末XRD測定により結晶形を確かめた上でDFTを用いた量子化学計算による構造最適化と赤外吸収強度計算を進め、これらを比較照合することで、分子振動の帰属解明を実現した。更に不純物としてこの物質Aの光学異性体及び派生化合物を故意に添加してその効果を確かめた。
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