軽くてやわらかいプラスチック上に熱電材料を薄膜合成した「フレキシブル熱電変換シート」は、IoT社会で不可欠となる微小エネルギー(μW~mW)を利用したセンサやウェアラブル・デバイスへの応用が期待されている。その社会実装には、無毒で安全かつ高い信頼性をもつエコマテリアルの選択が重要となる。本研究では、狭ギャップ環境半導体であるGe系IV族混晶の熱電薄膜としての高いポテンシャルを実証する。研究代表者はこれまで、プラスチック上Ge膜においてキャリアの粒界障壁を劇的に低減し、多結晶薄膜として世界最高のキャリア移動度を達成した。本技術をベースとし、「混晶」「粒界」「フェルミ準位」の3要素と量子(キャリア・フォノン)輸送特性の相関を解明・制御するとともに、高環境調和型熱電変換シートとして最高性能(室温、微小温度差でμW出力)を実証することを目的とする。 昨年度においては、3元混晶GeSiSn薄膜について、拡散材を用いることで伝導型をp型およびn型に制御した。さらに、GeSiSnの組成を変調することによって高い導電率を維持しながら低い熱伝導率を得ることに成功し、低温結晶化したIV族半導体系熱電材料として最高水準の無次元性能指数を達成した。しかし、拡散材を用いた不純物ドーピングには高温プロセスが必要であり、プラスチックフィルムを基板として用いることは難しい。そこで本年度においては、不純物を堆積時に添加しておくことで、結晶化過程で不純物活性化を行う手法を検討した。その結果、プラスチックを損傷しない低いプロセス温度において、高い性能(出力因子)を得ることに成功した。現在、フレキシブル熱電素子の試作と評価を遂行中だが、膜自体の特性とデバイス構造から、目標としてきたμWオーダーの出力が期待される。
|