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2021 年度 実績報告書

高Q値シリコンナノ共振器の内部吸収損失解明とデバイス機能拡張

研究課題

研究課題/領域番号 21H01373
研究機関大阪府立大学

研究代表者

高橋 和  大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20512809)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードシリコンラマンレーザ / フォトニック結晶 / カソードルミネッセンス / 高Q値ナノ共振器
研究実績の概要

研究初年度は、当初計画に従って、シリコンナノ共振器の吸収損失の正体と消去メカニズムの解明を、近赤外低温カソードルミネッセンスによる欠陥分析、欠陥を消去する熱処理の最適化、顕微分光測定によるデバイス評価を三位一体で行い進めた。その結果、主要な3つの研究テーマ、①動作波長の短波化、②Q値向上、③CMOS互換プロセスで作製されたデバイスの機能拡張において、着実な進歩が得られた。
①初年度より、1.2 um帯においてシリコンラマンレーザ発振を確認することができた。これは、シリコンラマンレーザの最短波長となる。1.5 um帯のラマンレーザよりもQ値が低かったにも関わらず、同等の低い閾値が得られた。ラマンレーザの動作波長を短くすると、高性能化が可能なことが実証できた。当初計画を上回り、1.08 umで動作する高Q値ナノ共振器を作製して、2万以上のQ値を得た。シリコンのバンドギャップよりも高いエネルギーにおいて、1万以上の高Q値が得られたことは、シリコンフォトニクスの新たな可能性として重要である。
②ナノ共振器の最高Q値である1100万の更新はできなかった。しかしながら、熱処理を最適化することにより、CMOS互換プロセスで作製したナノ共振器の最高Q値を、250万から350万に更新することができた。大量作製が可能なCMOSプロセスで作製したナノ共振器でもこれほど高いQ値が得られたことにより、シリコンナノ共振器の応用が進むだろう。
③CMOS作製したシリコンラマンレーザの閾値も、熱処理を最適化することにより、従来の半分まで低減できた。レーザ発振するサンプルも、歩留まり50%以上で得られた。ラマンレーザの実用化研究を加速させる成果である。予想以上に研究が進んだため、CMOS作製したシリコンナノ共振器の応用範囲を広げるために、産業界で大きな問題となっている空間電荷を検知する研究を進めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

研究期間内で達成することを目標としていた1.2 um帯で動作するシリコンラマンレーザを1年目から実現できた。その発振閾値とQ値を解析したところ、ラマンレーザの閾値は、レーザの動作波長を短くすることにより、下げることができることを実証できた。以上の結果を受けて、当初計画には無かった、1.1 um帯で動作するラマンレーザ開発に着手した。すでに、シリコンのバンドギャップよりも短い1.08 umにおいて、2万以上のQ値を得た。
シリコンナノ共振器のQ値向上を妨げている吸収損失の原因を、様々な熱処理を加えたチップについて低温カソードルミネッセンス測定を行うことにより調べた。徐々に、吸収損失の正体と消去メカニズムが明らかとなってきた。得られた知見を生かして、熱処理の雰囲気と温度の最適化を進めることにより、CMOS互換プロセスで作製したナノ共振器の最高Q値を350万に更新することができた。さらに、CMOS作製したシリコンラマンレーザの閾値も、従来の半分まで低減できた。さらなる高Q値化と、サブマイクロワット閾値に向けた研究を進めている。CMOSプロセスでシリコン中に発生する欠陥の解明に向けて、新しいシリコン基板を用いたサンプル作製にも着手した。
以上の研究について、1.2 umで動作するナノ共振器シリコンラマンレーザ、機械学習で設計した高Q値ナノ共振器を用いたシリコンラマンレーザ、シリコンラマンレーザによる空間電荷検知、CMOS互換プロセスで作製された高Q値ナノ共振器を用いた空間電荷検知に関する4本のフルペーパー論文をOptics Expressにて発表した。空間電荷検知については、米国光学会の国際会議において、M2の学生が招待講演を行った。進行中の研究については、2022年春季応用物理学会で4件発表した。コロナ禍によりサンプル作製回数を減らさざるをえないなか、計画を上回る成果が得られた。

今後の研究の推進方策

いまのところ研究遂行の問題は生じていない。2年目も、カソードルミネッセンス、熱処理、顕微分光測定を三位一体で行って、吸収損失の正体と消去メカニズムの解明、シリコンナノ共振器の機能拡張を進める。
【吸収損失、消去メカニズム解明】1.2 um帯におけるナノ共振器のQ値は、1.5 um帯のQ値と比べると低かった。CMOSプロセスで作製したラマンレーザのQ値も、EB描画で作製したサンプルより小さかった。さらなる吸収損失の解明が必要だが、これまで用いていたシリコン基板は、購入時点で欠陥が混入していたため、作製プロセスに起因する欠陥評価が難しかった。2年目は、欠陥数を減らした基板を用いてサンプル作製とカソードルミネッセンス測定を行う。さらに、熱処理装置にQ-mass装置を取り付けて、熱処理時にシリコンから放出されている不純物の同定を試みる。また、ラマンレーザとは異なるタイプのナノ共振器を作製して、Q値を低下させている理由が吸収損失だけなのか明らかにする。
【動作波長の短波長化】ラマンレーザのポンプ共振モードを1.08-1.13 um、ストークス共振モードを1.15-1.20 umにおいて確認することを目指す。この波長域では、顕微分光測定に用いる波長可変レーザが不足しているため、ASE光源などブロードな光源を用いて、共振波長とQ値を調べる。技術的に困難が予想されるが、研究代表者が現場で手を動かす時間を確保して一歩づつ進める。
【CMOS作製サンプル】:1 uW以下の閾値を目標にして、ラマンレーザの熱処理最適化を進める。特に、酸素アニールとアルゴンアニールのどちらが良いのか明らかにする。京都大学の共同研究者と高Q値ナノ共振器の寿命測定を行い、最高Q値を正確に計測する。
【最高Q値更新】吸収損失の除去プロセスの開発に加えて、揺らぎに強い共振器構造を機械学習により設計できるのか明らかにする。

  • 研究成果

    (22件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Detection of ionized air using a photonic-crystal nanocavity excited by broadband light from a superluminescent diode2022

    • 著者名/発表者名
      Yuki Takahashi, Masanao Fujimoto, Kazuya Kikunaga, and Yasushi Takahashi
    • 雑誌名

      Optics Express

      巻: 30(7) ページ: 10694-10708

    • DOI

      10.1364/OE.423475

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 爆発事故を誘発する静電気を光技術で検知する2022

    • 著者名/発表者名
      高橋 友基,太田 雄士,東口 岳樹,藤本 正直,高橋 和
    • 雑誌名

      化学工業

      巻: 73(4) ページ: 238-243

  • [雑誌論文] Oscillation Interruption of a Raman Silicon Nanocavity Laser Induced by Positively Ionized-Air Irradiation2021

    • 著者名/発表者名
      Yuki Takahashi, Satoshi Yasuda, Masanao Fujimoto, Takashi Asano, Kazuya Kikunaga, Susumu Noda, and Yasushi Takahashi
    • 雑誌名

      Nonlinear Optics

      巻: NF2B.1 ページ: 1-2

    • DOI

      10.1364/NLO.2021.NF2B.1

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Design Characteristics of a Raman Silicon Nanocavity Laser for Efficient Emission of Light Into an Adjacent Waveguide2021

    • 著者名/発表者名
      Yuki Saito, Takashi Asano, Susumu Noda, and Yasushi Takahashi
    • 雑誌名

      Nonlinear Optics

      巻: NM1A.6 ページ: 1-2

    • DOI

      10.1364/NLO.2021.NM1A.6

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 1.2-mm-band ultrahigh-Q photonic crystal nanocavities and their potential for Raman silicon lasers2021

    • 著者名/発表者名
      Hiroko Okada, Masanao Fujimoto, Tatsumi Tanaka, Yuki Saito, Takashi Asano, Susumu Noda, and Yasushi Takahashi
    • 雑誌名

      Optics Express

      巻: 29(15) ページ: 24396-24410

    • DOI

      10.1364/OE.431721

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Sub-100-nW-threshold Raman silicon laser designed by a machine-learning method that optimizes the product of the cavity Q-factors2021

    • 著者名/発表者名
      Taro Kawakatsu, Takashi Asano, Susumu Noda, and Yasushi Takahashi
    • 雑誌名

      Optics Express 29(11), 17053-17068 (2021).

      巻: 29(11) ページ: 17053-17068

    • DOI

      10.1364/OE.423470

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Detection of negatively ionized air by using a Raman silicon nanocavity laser2021

    • 著者名/発表者名
      Satoshi Yasuda, Yuki Takahashi, Takashi Asano, Yuki Saito
    • 雑誌名

      Optics Express

      巻: 29(11) ページ: 16228-16240

    • DOI

      10.1364/OE.423475

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] シリコンフォトニクスを用いた静電気検知~宇宙産業における事故の防止に向けて~2021

    • 著者名/発表者名
      高橋友基、保田賢志、高橋和
    • 雑誌名

      クリーンテクノロジー

      巻: 31(7) ページ: 23-27

  • [学会発表] シリコン光素子を用いた静電気センサの開発と宇宙産業への応用2022

    • 著者名/発表者名
      高橋 和
    • 学会等名
      第130回テクノラボツアー
    • 招待講演
  • [学会発表] アニールによるナノ共振器シリコンラマンレーザの内部欠陥変化2022

    • 著者名/発表者名
      生田 俊輔、浅野 卓、野田 進、高橋 和
    • 学会等名
      2022年春季応用物理学会
  • [学会発表] バイナリマスクと位相シフトマスクで作製された高Q値ナノ共振器(Ⅱ)2022

    • 著者名/発表者名
      桂 正晃、太田 雄士、高橋 友基、岡野 誠、高橋 和
    • 学会等名
      2022年春季応用物理学会
  • [学会発表] イオン空間電荷からシリコンフォトニック結晶へのキャリア流入2022

    • 著者名/発表者名
      東口 岳樹、高橋 友基、藤本 正直、菊永 和也、高橋 和
    • 学会等名
      2022年春季応用物理学会
  • [学会発表] 1.1 μm帯におけるナノ共振器シリコンラマンレーザの開発に向けた検討2022

    • 著者名/発表者名
      下村 悠、藤本 正直、浅野 卓、野田 進、高橋 和
    • 学会等名
      2022年春季応用物理学会
  • [学会発表] 非対称L3ナノ共振器の機械学習による高Q値化(II)~実験Q値16万の達成~2021

    • 著者名/発表者名
      福田 明星、藤本 正直、高橋 和、浅野 卓、野田 進
    • 学会等名
      2021年秋季応用物理学会(オンライン)
  • [学会発表] 高Q値シリコンラマンレーザ研究の現状と応用2021

    • 著者名/発表者名
      高橋和
    • 学会等名
      応用物理学会 界面ナノ電子化学研究会 第3回INE Link 講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] シリコンラマンレーザを用いた帯電ガスの検出2021

    • 著者名/発表者名
      高橋友基,高橋 和
    • 学会等名
      応用物理学会関西支部2021年度第2回講演会
  • [学会発表] 隣接導波路に高効率出力するシリコンラマンレーザの設計2021

    • 著者名/発表者名
      齋藤 雄樹、高橋 和
    • 学会等名
      応用物理学会関西支部2021年度第2回講演会
  • [学会発表] Design Characteristics of a Raman Silicon Nanocavity Laser for Efficient Emission of Light Into an Adjacent Waveguide2021

    • 著者名/発表者名
      Yuki Saito, Takashi Asano, Susumu Noda, and Yasushi Takahashi
    • 学会等名
      Nonlinear Optics 2021
    • 国際学会
  • [学会発表] Oscillation Interruption of a Raman Silicon Nanocavity Laser Induced by Positively Ionized-Air Irradiation2021

    • 著者名/発表者名
      Yuki Takahashi, Satoshi Yasuda, Masanao Fujimoto, Takashi Asano, Kazuya Kikunaga, Susumu Noda, and Yasushi Takahashi
    • 学会等名
      Nonlinear Optics 2021
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Recent advances in Raman silicon lasers using high-Q nanocavities and their application2021

    • 著者名/発表者名
      Yasushi Takahashi
    • 学会等名
      Optics and Photonics Japan 2021
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Ionized Air Detection Using a Silicon Photonic Crystal Waveguide2021

    • 著者名/発表者名
      Masanao Fujimoto, Yuki Takahashi, Kazuya Kikunaga, and Yasushi Takahashi
    • 学会等名
      The 12th Asia-Pacific International Symposium on the Basics and Applications of Plasma Technology (APSPT-12)
    • 国際学会
  • [備考] 修士学生がアメリカの国際会議で招待講演!

    • URL

      http://michitake.osakafu-u.ac.jp/2021/08/25/yuki_takahashi/

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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