研究課題/領域番号 |
21H01393
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渋川 敦史 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (80823244)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 波面整形 / 生体イメージング / 生体深部計測 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
今年度は,10mm近い広視野を実現するため,最近開発した一次元空間光変調手法(1D-SLM)を基盤とする散乱レンズの原理実証を遂行した.開発した一次元空間光変調手法では,共振器ミラーによって,シリンドリカルレンズによって生成したラインビームをデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)上で横方向に高速走査することで,一次元空間パターンの超高速変調を可能にする.本手法によって,最大20MHzのフレームレートが達成可能であることを実験的に実証している.この変調速度は,これまでの世界最速記録となる変調速度(350kHz)と比べても,おおよそ50倍に相当する. 以下,この高速変調手法を基盤とした散乱レンズの原理実証を行ったので,その実験結果を報告する.まず,散乱レンズの広視野性能を評価するため,散乱媒質背後の異なる位置に光スポットを生成し,各位置での光スポットの半値全幅幅を評価した.その結果,開口数0.5に相当する半値全幅幅を持った光スポットを,5× 5 mm2の広視野において生成することができた.開口数0.5のオリンパス対物レンズの視野が1 × 1 mm2であることから,開発する散乱レンズは,おおよそ25倍の広視野化を達成している.次に,高速変調手法によって,散乱レンズによって生成した光スポットを超高速に走査できることを実証した.ピンホールを透過する位置に光スポットを生成する波面解とそうでない位置にスポットを生成する波面解を交互に高速変調し,その光スポットのON/OFF信号をアバランシェフォトダイオード(APD)によって検出した.そのAPD信号波形の結果から,光スポットのON/OFFを20MHzで制御できていることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,マウス脳皮質全体をイメージング対象にするための「広視野レンズ」の開発と,深さ2mmを超えるマウス脳深部で光スポットを生成するための「近赤外光を用いた高速波面整形システム」の開発を行っている. <広視野レンズの開発>現在までに,広視野かつ超高速な光スポット走査を可能にする散乱レンズの開発に成功している.これは,初年度の研究計画で予定していなかった成果であり,大きな進捗と言える.一方,当初予定していた「散乱媒質として振る舞うメタサーフェスを設計・作製」することを,現時点で完了することができていない.これは,研究計画における各研究項目の順序を変更したためであり,研究の進捗に遅れは生じていない. <サブミリ秒波面整形システムの開発>現在までに,初年度の研究計画で予定していたMHzクラスの超高速空間変調手法の開発を完了させている.一方で,当初完了を予定していた「高速変調手法を基盤とする高速波面整形システムの開発」は,現時点で着手した段階にあり,今後加速的に遂行する必要がある. 以上を要するに,本研究は,「おおむね順調に進展している」と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
<広視野レンズの開発> 「高効率に光スポットを生成」かつ「高効率に蛍光を回収可能」なメタサーフェスを,FDTDシミュレーションにより設計する.次に,メタサーフェスを電子線ビーム描画装置で実際に作製し,動作確認を行う.設計段階での透過マトリクスと実際のメタサーフェスが示す透過マトリクスが一致しているか,実験的に検証する.また,光スポット生成時の光利用効率や表面反射率などの観点から,作製したメタサーフェスの性能評価を行う.
<サブミリ秒波面整形システムの開発> 「世界最速空間変調手法を基盤とする高速波面整形システムの開発」に向けて,制御プログラミング言語を,MATLABからC++へ変更する.そして,波面整形システムのフィードバックループにおける各種プロセス(波面解を求めるためのデータ取得・波面解のPC上での計算・波面解の空間光変調器への表示)を並列化し,サブミリ秒の応答速度を達成する.また,近赤外光に対するマウス脳における散乱応答の時間変化特性を評価する.
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