研究課題/領域番号 |
21H01396
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 輝光 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (20423387)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | スピン偏極率 / 磁性細線 / 磁壁移動型メモリ |
研究実績の概要 |
アモルファス磁性細線に形成された磁壁の移動特性を確認するための実験として本年度は以下のような研究成果を得た。 アモルファス磁性薄膜であるTbCo薄膜をスパッタ法により作製した。本研究では従来のTbCo合金薄膜ではなく、極薄いTb層とCo層とを積層したTbCo薄膜を作製した。Tb層およびCo層の各層厚の比率や、(Tb/Co)層の厚みを調整することで垂直磁気異方向性を付与することに成功した。また、垂直磁気異方向性は各層厚と密接な関係があることを明らかにした。得られた薄膜の垂直異方向性はTb層の酸化のため、成膜直後から徐々に低下し、約1日で殆ど消滅してしまうことが明らかになったが、TbCo膜の上部にSiO2を酸化防止層として成膜することでこれを解決した。さらにTbCo積層膜では報告例の多いTbCo膜と比較すると補償組成がTbリッチな方へシフトすることが明らかになった。 磁壁移動実験のセットアップを模倣したマイクロマグネティックシミュレーションを行い、磁性細線に印加する逆磁界が大きい程、磁壁を移動させるのに必要な電流値が大きくなることを確認した。また、TbCo薄膜は飽和磁化が小さいため、ネール型の磁壁構造を取る傾向が強いことが分かった。本シミュレーションで得られた結果と磁壁移動実験結果を比較することでTbCo薄膜のスピン偏極率の推定が可能になる見込みである。また、電流磁界を逆磁界として用いる場合には磁界の面内成分と磁壁の磁化ベクトルとの向きの関係により磁壁駆動閾電流が変化することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ感染拡大による研究活動の制限により実験的研究活動がやや遅れており、また、半導体デバイスの不足による実験装置納入の遅れが生じた。これらの理由から、1年目に予定していた進捗にやや遅れが生じている状態である。一方で、現状の研究設備で実施可能な、2年目以降に予定していたコンピュータシミュレーションを前倒して実施した。そのため全体としておおむね順調に研究は進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
コロナ感染拡大防止および半導体デバイス不足によって遅れが生じている1年目に実施予定としていた実験的研究を行う。2年目に予定していたコンピュータシミュレーションは1年目に前倒して行っているため、今年度以降は実験的研究に注力する。1年目に作製したTbCo薄膜をフォトリソグラフィー法により微細加工し、磁壁移動実験とコンピュータシミュレーションの結果を比較してスピン偏極率を推定する。時間的な余裕があればTbCoと同じアモルファス薄膜であるGdCoやGdFeなどの薄膜においても同様の実験を行う予定である。また、3年目に実施予定の磁壁移動の動的検出を行うため、現有のKerr測定系の検出部をフォトダイオードから高速・高感度な光電子増倍管に取り換えて測定系のセットアップを行う。この際、ノイズが問題となることが懸念されるため低ノイズ化の方策を検討する。
|