研究課題/領域番号 |
21H01408
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 光 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60242616)
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研究分担者 |
三浦 泰人 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10718688)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 付着 / フック / 応力伝達 / 内部ひび割れ進展 / 剛体バネモデル / 重ね継手 |
研究実績の概要 |
2021年度は、研究期間内に予定している実験・解析を行うための第一ステップとして、(1)実験装置の整備と基本的要因に対する実験の実施(載荷試験側面)、(2)損傷進展挙動把握のための供試体表面のひび割れの計測方法の確立(計測側面)、(3)数値解析手法の適用性の確認と応用(数値解析側面)、を行った。 (1)載荷試験側面では、鉄筋の引抜試験を行うために、偏心載荷も可能でかつ表面ひび割れ測定のために画像計測も可能な供試体形状を決定し、載荷装置を作成した。作成した装置を用い、フックの曲げ内半径、かぶりをパラメータとしたケースと、フックのみの付着を考慮したケースの引抜試験を行った。鉄筋ひずみを出来るだけ測定し、フック部の鉄筋の変形や付着伝達が引き抜き挙動に及ぼす影響を明らかにした。 (2)計測側面では、画像相関法を用いて荷重に従った供試体表面の損傷のひずみ変化を連続的に計測した。付着挙動が表面ひび割れ進展に及ぼす影響として、応力がある程度大きくなった段階で、ひび割れが急激に進展することを明らかにした。 (3)数値解析側面では、実験を行った供試体に対して、コンクリートのひび割れの発生や進展を正確に評価できるボロノイ分割を用いた3次元剛体バネモデル(3D-RBSM)を用いて数値解析を行い、その適用性を確認した。また、フックの曲げ内半径、かぶり、フック余長長さをパラメータとした解析を行った。鉄筋のひずみ・応力分布、フック周辺のコンクリートのひずみや応力挙動を詳細に検討し、フック部が引き抜け時に局所的な変形挙動を示し、その局所的な変形がコンクリートへの応力伝達挙動に大きく影響しているというメカニズムを明らかにした。また、重ね継手の解析も行い、重ね継手間からひび割れが進展すること、そのひび割れ進展を制御することで継ぎ手性能が改善することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度に予定していた、(1)載荷試験側面、(2)計測側面、(3)数値解析側面、の3つの観点での検討は、いずれも着実に実施した。 (1)の載荷試験側面については、載荷装置を予定通り作成し、各種要因を考慮した鉄筋の引抜試験を実施した。また、鉄筋のひずみ分布の詳細な測定から、実験的にフック部の局所的な変形挙動の知見と、解析の検証用のデータを得ることが出来た。 (2)の計測側面については、画像相関法で、表面ひび割れ進展を詳細に検討できることを確認した。ただし、供試体の寸法から、供試体を切断することが出来ず、切断法による内部損傷観察が困難なことが明らかになり、新たな供試体の検討あるいは内部損傷観察方法の検討が必要との課題が生じた。 (3)の数値解析側面では、適用した解析手法が実験結果を正確に評価できるとともに、鉄筋の局所挙動やコンクリートのひび割れや応力分布など、付着・定着メカニズムを検討するために必要な結果を得られることが明らかになった。また、付着・定着の実用的な問題である重ね継手への適用も可能との知見を得るとともに、継ぎ手性能に影響を与える損傷進展やメカニズムも解析的に明らかに出来た。 3つの観点のいずれも予定通りの内容を概ね実施し、さらに数値解析側面では予定にはなかった重ね継手という応用的な問題も実施することが出来た。また、IFの高いジャーナルにも論文が掲載されるなど、得られた成果の公表もできたことから、総合的に「概ね順調に進展している」と自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度確立した実験・計測方法を用いて新たなパラメータによる実験を行うとともに、昨年度適用性を確認した解析方法を用いて、実験パラメータに対する損傷進展挙動や応力伝達メカニズムを明確にする。研究計画に沿って、(1)載荷試験側面、(2)計測側面、(3)数値解析側面、の3つの観点で以下の検討を行う。 (1)の載荷試験側面では、鉄筋の定着に最も重要な役割を果たすフックを対象に、その形状(曲げ内半径、フック余長)を主なパラメータとして引抜試験を行い付着・定着挙動を検討する。また、連続的にひずみを計測してより詳細な伝達挙動の評価が可能になるように、光ファイバーによるひずみ分布の計測も試みる。 (2)の計測側面では、実験を行った供試体に対し、供試体表面のひび割れの計測を画像相関法で行い、フック形状と表面でのひび割れ進展の対応関係を明らかにする。一方、昨年度の検討から大型の供試体では供試体切断が困難であったことから、供試体を切断しやすく目的とする内部損傷を把握できる供試体を用いて、内部ひび割れの可視化を行い、内部の損傷状態を実験的に明らかにする。 (3)の数値解析側面では、実験を行った供試体に対して、ボロノイ分割を用いた3次元剛体バネモデルを用いて数値解析を行い、フック形状が鉄筋の3次元的な変形や曲率、軸力や曲げモーメントの断面力分布に及ぼす影響を明らかにする。また、コンクリートの損傷をより明確化するため、詳細なひずみ進展挙動を検討可能な解析モデルの構築を新たに行う。さらに、フックを有する重ね継手の解析も行い、実問題に近い対象の検討も同様に行う。これらの解析結果から得られた鉄筋の状態と、コンクリートの内部損傷や応力分布を検討し、損傷進展と定着メカニズムの明確化を行う。
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