研究課題/領域番号 |
21H01410
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岩城 一郎 日本大学, 工学部, 教授 (20282113)
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研究分担者 |
前島 拓 日本大学, 工学部, 講師 (20845630)
福山 敬 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (30273882)
岩波 光保 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (90359232)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 橋 / セルフメンテナンス / 市民協働 / 建設マネジメント / 社会科学 |
研究実績の概要 |
本研究では,地方自治体が管理する橋梁に焦点を当て,市民協働と人材育成を両輪とした橋の維持管理モデル,つまり「橋のセルフメンテナンスモデル」の構築を行い,実装することを目的とした.本モデルの実装に当たっては,住民だけでなく学生,インハウスエンジニア,地元企業などが主体となって取り組んでおり,それぞれの地方自治体に合った方法で展開することが重要である.そこで,令和4年度は,各地で新たに橋のセルフメンテナンスに取り組む団体があり,その支援を行うとともに,簡易橋梁点検チェックシートのアプリケーションの試行とアンケート,ヒアリングを実施し,アプリケーションの改善に向けて情報の整理を行った. 実践的アプローチとして,研究関係者全員で10月15-16日に福島県平田村に赴き,乙空釜地区で実施された道づくりプロジェクトと橋のセルフメンテナンスモデルの実証プロジェクトに参加した.住民へのヒアリングの結果,平田村での活動は「ボランティア行動の経済学」で一般に説明されるような合理的行動(自身・他者のメリットを求める行動)でととらえきれない歴史依存性や既存のつながりの存在が活動継続の重要な要素であることを明らかにすることができた.また,市民参加型メンテナンスに適した調達制度や契約方式について,有識者ヒアリングを実施し,検討にあたってのポイントを明らかにした. さらに,これまで,市民参加型メンテナンスは自治体の予算や体制が整っていない地域で先進的に取り組まれていたが,今後は都市部の自治体においても適用していくことが考えられる.そこで,東京都大田区において市民参加型メンテナンスを実装することを想定し,そこで発生すると考えられる問題点を住民アンケートなどに基づいて明らかにして,今後の取組みの方向性について検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の通り,各地にセルフメンテナンスモデルを展開できた一方で,コロナ禍で社会科学的アプローチについては十分な成果が得られなかったため,おおむね順調に進展しているとした. 【熊本県玉名市】熊本県玉名市の玉名工業高校にて橋のセルフメンテナンスに取組んでみたいという要望があり,玉名市役所橋梁係を通じて支援を行った.オンラインで2回指導を行ったのち,玉名市役所から要請があり直接指導に伺うことができた.その際,玉名工業高校の生徒,教員,玉名市役所橋梁係,企画課が参加し,チェックシートを用いた点検や清掃活動,損傷事例や補修事例を学んだ.【福島県棚倉町】藤建技術設計センターの社員が中心となり,橋のセルフメンテナンスを行って頂けることとなり,夏に一度社員の方のみで土砂の撤去などを行ったが,秋に日本大学工学部の学生と共にチェックシートを用いた点検や清掃活動,高圧洗浄機を用いた橋面及び支承回りの洗浄など,一般市民には難しい一歩進んだ清掃活動を実施することができた.【東京都大田区】市民参加による橋のメンテナンスに取組みたいという要望があり,都市部での橋のセルフメンテナンスの体制について調査・検討を行っている.今年度は住民へのアンケート調査や橋梁の調査等を中心に行い,引き続き体制について協議を行う.【東京都足立区】社会福祉協議会から関心を得ることができ,今後子どもたちや高齢者等による活動に繋がるよう,引き続き対話や支援を行う.【熊本県天草市】天草市本町鶴地区では,地域住民が主導となり,公園やキャンプ場づくりが行われている.この住民の方々により,橋のセルフメンテナンスが行われることとなり,2023年3月より実施されている.特徴は天草市ではなく熊本県管理の橋を行っている.仮に,本町鶴地区で行われているこの活動がうまく回れば,天草モデルとして熊本県内に展開したいという考えがあるためである.
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今後の研究の推進方策 |
以下の項目について推進する方針である. ①橋のセルフメンテナンスモデルの展開・実装支援:地方自治体が管理する橋梁に焦点を当て,市民協働と人材育成を両輪とした橋の維持管理モデル,つまり「橋のセルフメンテナンスモデル」の構築を行い,実装をしている.全国各地で取組みたいという声が上がっており,実装に向けて支援を行う.②スマートフォン版チェックシート/データプラットフォームの構築:橋のセルフメンテナンスで使用されている紙媒体の簡易橋梁点検チェックシートのアプリケーションの構築を進める.橋の基本情報やチェックシートでの点検結果を地図上から確認ができる「橋マップ」については,アプリケーションで点検した結果がすぐに橋マップに反映できる仕様にする.この時,単に橋梁に関する情報のみを掲載するのではなく,人流データやハザードマップ等もレイヤー分けして確認することができるデータプラットフォームを見据えて構築を進める.③ 土木教育活動:教育を受けた子供たちが土木へ興味関心を持ち,将来の選択肢の1つとして土木業が加わったり,あるいは地域でのインフラの簡易な維持管理や整備に積極的に関わったりするようになること,あるいは,教育を受けた子供たちの兄弟や親御さん等の家族も子供の受けた教育を通じて土木に興味関心を持つようになることを目的に土木教育活動を実践する.④ 土木を通じた地域づくり:福島県平田村では,橋のセルフメンテナンスだけでなく,土木を通じた地域づくりについても議論を進める.橋のセルフメンテナンスを継続的に行うためには,住民が思う橋そのものに対する価値,メンテナンスに対する価値,あるいは地域に対する価値が向上することが必要であると考える.橋や道といった土木を通じた地域づくりについて議論を進め,実行する.
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