研究課題/領域番号 |
21H01438
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山城 賢 九州大学, 工学研究院, 教授 (70336014)
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研究分担者 |
上久保 祐志 熊本高等専門学校, 企画運営部, 教授 (90332105)
横田 雅紀 九州産業大学, 建築都市工学部, 准教授 (60432861)
井手 喜彦 九州大学, 工学研究院, 助教 (60866680)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水工水理学 / 海岸工学 / 越波 / 海水飛沫 / 飛来塩分 / 現地観測 / 水理模型実験 |
研究実績の概要 |
防波堤や護岸等は波浪制御等の役割を果たす一方で,海水飛沫や海塩粒子(水分が蒸発した微小な塩分の粒子)の発生源となる.特に,波が構造物で激しく打ち上がる(大規模越波と呼ぶ)場合には,大量の飛沫や海塩粒子が広い範囲に拡散して農作物の枯死や停電,鉄筋コンクリート構造物等の腐食・劣化などの塩風害を引き起こす.越波飛沫の発生と飛散については,定性的には説明できても,詳細な物理過程は不明な点が多い.本研究では,大規模越波による越波飛沫の発生過程を解明し,越波と風の状況から護岸背後域に飛来する飛沫の粒径と発生量の推定を可能とすることを目的に,現地観測,水理模型実験および数値シミュレーションを実施する.令和3年度は以下の項目について実施した. 現地観測の目的は,現地で実際に越波飛沫を計測し,越波や風の状況と越波飛沫との関連を把握することである.令和3年度には,山口県の日本海沿岸にある人工島において,冬季風浪時に観測を実施し,越波量,飛沫量,飛沫粒径,飛来塩分量,風向風速を計測した.また,ビデオ映像から画像解析により越波の打上げ高を計測する手法を構築した. 水理模型実験の目的は,現地では直接計測できない越波飛沫の発生の状況や飛散過程,風の作用の詳細を把握することである.令和3年度には,観測を実施した人工島の護岸や海底地形の条件をもとに,大きさが異なる2つの断面2次元造波風洞水路に異なる縮尺で実験模型の製作を開始した. 数値シミュレーションの目的は,現地での実際の現象と水理模型実験との差異を補完する情報を得ることである.令和3年度には,OpenFOAMを用いて,大規模越波から風によって越波飛沫が霧状に飛散する状況の数値シミュレーションを行い,現地の越波飛沫量を概ね再現できることを確認した.また,現地観測時の来襲波浪の再現シミュレーションを行い,観測時の詳細な波浪情報を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の主な実施内容は現地観測であり,観測場所の選定,観測機器の配置,実施手順など,関係各所の協力を得つつ滞りなく準備することができ,計画通りに冬季に実施することができた.観測は暴風暴浪時に行うため,雨や雪が多く降ると越波飛沫や飛来塩分の精度のよい計測が困難となる.したがって,観測時の気象条件が心配されたが,幸い観測の際に雨や雪が問題になることはなく貴重な観測データが多く得られた.また,越波流量の計測に関しては,独自の計測機器の開発にも取り組み,ある程度の規模の越波であれば,比較的良い精度で計測できることを確認した.さらに,越波の際の海水の打上げ高を画像解析により自動計測する手法も開発した.観測で得られたデータに加え,最寄りの波浪観測データや潮位データ,気象データ等を収集し,波浪については数値シミュレーションも実施し,気象海象条件と越波の規模,越波量および越波飛沫(粒径や発生量)との関連について検討を進めている.模型実験についても,観測を実施した人工島における護岸や海底地形の条件をもとに,大きさが異なる2つの断面2次元造波風洞水路に異なる縮尺で実験模型の製作を進めており,計画通りの進捗状況である.並行して,大きく打ち上がった水塊から風によって越波飛沫が霧状に飛散する状況の数値シミュレーションに取り組み,現地の越波飛沫量を概ね再現できることを確認した.数値シミュレーションについては,次年度にさらに精度を高め,現地観測結果や実験結果との比較検討を行う予定であり,現在の進捗状況は順調といえる.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度も令和3年度と同様に,現地観測,水理模型実験および数値シミュレーションを実施する.現地観測では,前年度と同じく山口県の人工島において冬季風浪時に観測を実施し観測データを蓄積する.なお,前年度の観測では,越波の規模が大きすぎると雨量計での飛沫量の計測が困難であったこと,飛沫粒径の計測がスムーズにできなかったことなどの課題が明らかとなった.令和4年度の観測では,それらの課題を克服することに加え,独自に開発している越波流量計や打上げ高の画像解析による計測手法について,更なる改良を試み,良質な観測データを蓄積する.また,令和4年度からは前年度の観測結果をもとに,越波や風の状況と越波飛沫との関連について詳細に検討する.水理模型実験については,模型の制作が完了次第,現地の越波の状況を再現する可視化実験を行い,画像解析手法により飛沫の粒径と個数を計測して,越波飛沫の発生状況や飛散過程,風の作用の詳細について検討する.また,縮尺が異なる実験結果の比較によりスケール効果についても検討する.数値シミュレーションについては,引き続き計算精度の向上に取り組み,越波飛沫の発生過程について検討する.加えて,より広域にわたって飛散する飛来塩分の拡散シミュレーションを試みる.現地観測,水理模型実験,数値シミュレーションの結果を総合的に検討し,大規模越波により生じる越波飛沫の発生過程を解明し,越波と風の状況から護岸背後域に飛来する飛沫の粒径と発生量を推定する手法の構築を目指す.
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