研究課題/領域番号 |
21H01449
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
青木 俊明 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60302072)
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研究分担者 |
鈴木 温 名城大学, 理工学部, 教授 (00356073)
増田 聡 東北大学, 経済学研究科, 教授 (30231591)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 居住意図 / 居住地選定 / 生活満足度 / 地域愛着 / 定住意図 / 協力行動 / 場所の記憶 / 社会信用制度 |
研究実績の概要 |
まず、前年度成果の論文化を行った。その上で、東日本大震災の被災者を対象に得たデータを再分析した。その結果、被災後に別地区に転居した被災者の多くは、生活満足度が回復していることが認められた。また、ソーシャル・キャピタルのような社会的要因に基づく生活満足度は回復が難しいが、物理的な環境の改善(新居への入居等)が生活満足度の低下を補うことも分かった。これは、生活満足度を構成する社会的要因と物理的要因が相補関係にあり、生活満足度は居住行動の根幹要因であることを踏まえれば、居住行動は物理的要因と社会的要因の2点で説明する必要があると言える。 また、「場所に対する記憶」は認知バイアスとして居住意思決定に影響を及ぼしうることから、それと居住意思決定の関係を調査した。その結果、ポジティブな場所の記憶は定住意図を高めることが示唆された。場所の記憶の中身も検討したところ、ポジティブな記憶は、都市部では、買い物や公園での活動といった余暇活動で形成され、農山村部では余暇活動の中で形成されることがうかがえた。しかし、農山村部では、その文脈が自然環境と地域文化であるという点で都市部とは異なっていた。ネガティブな場所の記憶については、都市部では近隣地区や商業地区での対人トラブルや治安や交通事情(混雑、不便さ、怪我懸念)などから形成され、農山村部では対人事象に加えて、日常の不便さ、災害への懸念などから形成されることがうかがえた。 さらに、スマートシティ技術の発展により、プライバシー漏洩のリスクが居住意思決定に影響を及ぼすことが想定された。そのため、社会信用制度(SCS)が発展している中国を対象にSCSが居住意思決定に与える影響について整理した。 いずれも、これまで居住意思決定要因として想定されていなかたものが居住意図に影響を及ぼすことを示唆しており、居住意思決定要因の整理が必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査の実施については、概ね予定通りに進展している。また、社会信用制度に関する仮説は、研究の進展に伴って生まれた新しい視点であり、この点については、予定以上の進展であると言える。その一方で、認知バイアスが居住意思決定に与える影響についての理論的分析は実験実施がやや遅れている。そのため、総合的には「概ね順調な進展」であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今年度の成果を投稿論文にすることが挙げられる。それと同時に、実施がやや遅れている認知バイアスが居住意思決定に与える影響についての心理実験を速やかに行い、その成果を発表する予定である。さらに、農山村部の居住意思決定については、調査や報告が順調に進んでいるが、都市部における居住意思決定についてはまだ調査を行っていない。そのため、次年度は都市部を対象とした調査も行い、農山村部との相違点を検証していく必要がある。最終的には、都市部も農山村部も含めた居住意思決定を包括的に説明する枠組みを検証する必要もある。
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