研究課題/領域番号 |
21H01462
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
吉村 千洋 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (10402091)
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研究分担者 |
佐野 大輔 東北大学, 工学研究科, 教授 (80550368)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光化学反応 / ラジカル / 溶存有機物 / 光学特性 / 微量有機汚染物質 / 病原ウイルス |
研究実績の概要 |
本研究では水中における各種ラジカルの生成およびそれらと有機化合物・病原微生物の反応を記述するモデルを開発することを目的としている。2022年度は昨年度に構築した反応装置を活用して、1)水中におけるラジカル生成反応の定量、2)各種ラジカルの量子収率のモデル化、3)病原微生物不活化モデリング、4)光化学反応を再現するための湖沼水質モデルの開発を実施した。 全国57の湖沼やダム貯水池から表層水を対象として基礎的水質および光学特性を測定し、その上で、一重項酸素と三重項溶存有機物の量子収率の定量を完了した。たとえば、ダム貯水池の一重項酸素の量子収率は平均で2.55×10-2、励起三重項溶存有機物の量子収率は平均で61.2 M-1であった。これらと水質特性との関係を定式化したところ、一重項酸素の量子収率は吸光特性や蛍光特性を示す指標と高い相関を示し、重回帰式やランダムフォレストモデルにより精度良く推測できることが示された。 また、水中における病原微生物不活化モデリングとして、対象ウイルスをロタウイルスとして、水質パラメータを説明変数とした回帰モデルを構築した。その結果、正則化回帰モデルの適用により予測精度が向上することが見出された。 さらに、光化学反応を明示的に計算する湖沼水質モデル(MyLake-Photo、鉛直一次元)を世界で始めて開発した。本モデルを用いた応答分析の結果、水温躍層と有機化学物質の分解速度や濃度の関係、また植物プランクトンの増殖と有機汚染物質の光分解プロセスの関係を定量的に示すことを可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一重項酸素および励起三重項溶存有機物の量子収率を定量する光化学実験に集中的に取り組んだため、昨年度に生じた研究の遅れを取り戻すことができた。両者の定量実験は完了しており、一重項酸素についてはその量子収率のモデル開発も実施した。また、微生物の不活化に関しては、今年度までにエンテロウイルスとロタウイルスを対象に正則化回帰モデルの構築と応用を行うことができた。そして、湖沼水質モデルへの光化学反応の統合についても基礎方程式を導入した。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの取り組みを継続する形で、ラジカル生成反応の定量を太陽光照射の条件を中心に進め、一重項酸素と同様に励起三重項溶存有機物およびヒドロキシラジカルの量子収率とそのモデル化を進める。その結果を海域や沿岸域も含めた既往の知見と統合することで、淡水中における間接光分解プロセスの特徴を明確に示す。 そして、過去2年間の実験により、ウイルス集団の遺伝的多様性が酸化による不活化効率に影響を与えていることが示唆された。遺伝的多様性が異なる複数のウイルス集団を人為的に作成し、酸化による不活化実験に供することで、ウイルス集団の遺伝的多様性を加味した不活化モデリングに取り組む。 また、光化学反応を組み込んだ湖沼水質モデルについては、上記の量子収率モデルを活用することで、湖沼表層における光化学反応を水質特性に応じた形で推定できる形に発展させる。これにより、各湖沼の水質さらには流域環境条件により対応するラジカル生成プロセスを再現できるようになり、水域での有機汚染物質の分解や微生物の不活化を定量的に評価することが可能となる。つまり、成果として得られる新規水質モデルは淡水域における有機汚染物質の除去効率、そして、それに対する温暖化の影響や水上太陽光発電などの影響を推定することを可能とする。
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