研究課題/領域番号 |
21H01470
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
小坂 浩司 国立保健医療科学院, その他部局等, 上席主任研究官 (60370946)
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研究分担者 |
越後 信哉 京都大学, 工学研究科, 准教授 (70359777)
浅田 安廣 国立保健医療科学院, その他部局等, 主任研究官 (60610524)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 消毒副生成物 / 藻類由来有機物 / ラフィド藻類 / 塩素処理 / リスク管理 |
研究実績の概要 |
2021年度は、国立環境研究所微生物系統施設の微生物保存株(NIES株)5種(藍藻類3種、緑藻類2種)を培養、抽出し、藻類由来有機物の塩素処理による消毒副生成物生成ポテンシャルを評価した。5種のうち、2種は培養後の藻類由来有機物の抽出方法を変えた。消毒副生成物は、トリハロメタン、ハロ酢酸、ハロアセトニトリル、ハロアルデヒドの4グループ20種を対象としたが、検出されたのはクロロホルム、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロアセトニトリル、抱水クロラールの4グループ6種であった。消毒副生成物生成ポテンシャル試験では、対象試料の有機炭素濃度を一定にした。緑藻類のうち1種は、消毒副生成物の総濃度が最も高く、いずれの消毒副生成物も生成ポテンシャルは高かった。もう一方の緑藻類は、消毒副生成物生成ポテンシャルが低く、藻類種が同じでも生成能の違うことが示された。3種の藍藻類間でも消毒副生成物生成ポテンシャルは異なり、そのうち2種は学名も同じであったが、生成ポテンシャルは異なった。藻類由来有機物に超音波を用いたところ、一部の消毒副生成物生成ポテンシャルは増加した。 トリクロロ酢酸生成能が高いことが報告されている、NIES株のラフィド藻類(Gonyostomum semen)の培養液を限界ろ過で高分子画分を抽出し、逆相-強陽イオン交換固相抽出カートリッジで通水したものを凍結乾燥した後、1H NMR、FT-IRで解析した。1H NMRスペクトルでは、糖鎖および芳香族に由来すると推察されるシグナルが確認された。ハロ酢酸前駆物質の特徴的な構造から、フェノールを部分構造に含む糖や糖タンパク質である可能性が示唆された。IRスペクトルは、ヒドロキシ基と芳香族化合物に由来すると推察されるシグナルが確認され、1H NMRの結果と矛盾はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、藻類からの消毒副生成物生成の全体像を踏まえたリスク評価、前駆物質の構造的特徴、制御方法を明らかにすることを目的に、①多種の藻類に対する消毒副生成物の生成消毒副生成物生成ポテンシャルの網羅的評価、②藻類由来有機物中の消毒副生成物前駆物質の特定、③藻類由来の消毒副生成物前駆物質の存在実態の把握と対応可能な浄水システムの構築の3つの課題に取り組むことを計画している。 2021年度は、当初の計画の予定通り、課題①、②を遂行した。課題①では、5種の藻類について、藻類由来有機物の消毒副生成物生成ポテンシャルを評価し、生成ポテンシャルの違いを明らかにした。藻類の培養条件や藻類由来有機物の抽出方法について検討し、注意点も把握することができた。6種の消毒副生成物は、基準項目3種、水質管理目標設定項目2種と評価が優先される消毒副生成物は網羅されており、藻類由来有機物では生成ポテンシャルが比較的高いと考えられている含窒素消毒副生成物(ジクロロアセトニトリル)も含まれている。課題②については、計画通り、ラフィド藻類(Gonyostomum semen)を対象とし、これまで情報が無かったNMR、FTIRによる解析を行ったところ、構造推定につながるスペクトルが確認され、②の目標達成につながる新規の成果が得られた。 以上の結果から、今年度は実施計画に沿っておおむね順調に研究を遂行することができたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、2021年度と同様にNIES株を対象に、構築した培養条件、抽出条件で藻類由来有機物を準備し、消毒副生成物生成ポテンシャル試験を行う。緑藻類、藍藻類以外の藻類種も対象とする。また、水道水源である全国の6ダム・湖沼について、藻類が大量に発生した時期の水を入手し、顕微鏡観察により藻類を単離し、培養した溶液についても消毒副生成物生成ポテンシャル試験を行う。対象とする消毒副生成物は、2021年度と同様とする。 藻類由来消毒副生成物前駆物質の特性解析は、2021年度と同様に、トリクロロ酢酸の生成ポテンシャルが高いラフィド藻類(Gonyostomum semen)を対象とする。2021年度に検討した解析手法に加えて、2022年度は、三次元蛍光スペクトル、液体クロマトグラフ高分解能質量分析計(Orbitrap/MS) のマススペクトル、13C-NMRについても検討する。 2022年度からは、ラフィド藻類(Gonyostomum semen)について、塩素処理によるトリクロロ酢酸の生成特性について検討する。トリクロロ酢酸前駆物質の低減効果について、実験室実験で、凝集沈殿処理、粉末活性炭処理、オゾン処理の検討を行う。さらに、消毒副生成物生成ポテンシャル試験により、消毒副生成物を高濃度で生成することが明らかとなった藻類についても、同様に塩素処理による生成特性や低減策を検討する。
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