研究課題/領域番号 |
21H01474
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
尾崎 文宣 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (40434039)
|
研究分担者 |
鈴木 淳一 国土技術政策総合研究所, 建築研究部, 主任研究官 (10453846)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 鋼構造耐火 / リダンダンシー / レジリエンス / 構造耐火実験 / 耐火設計 |
研究実績の概要 |
本課題では火災罹災後の鋼構造の早期復旧・再利用を可能にさせるために、架構が有する火災時の荷重再配分能力(リダンダンシー)に着目した載荷加熱実験と各種鋼部材の高温実験を行い、火災および火害後の架構レベルでのリダンダンシーの効果を解明する。さらに火災後の補修・取替え範囲が小さく済む火害後回復力(レジリエンス)に優れた鋼架構を見出し、最終的に鋼架構の火災時リダンダンシーとレジリエンスの関係を明確化して、レジリエンスついても評価可能な耐火設計・評価法を提案する。本年度は下記の研究成果を得た。 1)実大鉄骨フレームの載荷加熱実験を実施し、火災時の荷重再配分能力が低いと考えられていた薄板系鋼梁に対しても、加熱途上に発生する局部座屈の塑性変形によって熱応力の再配分(減衰)能力が発揮され、局部座屈発生温度よりさらに高温側で梁崩壊モードが形成されることを明らかにした。さらに高温局部座屈後の鋼梁に対してもカテナリーによる力の釣合い機構が形成され、終局状態まで安定的な荷重支持能力を有することを初めて解明した。 2)レジリエンス促進のための建物火害診断調査項目の高力ボルトの火害後軸力変動、すべり耐力に関する評価実験を実施し、火害後の軸力低下とすべり耐力の関係を初めて定量化した。さらに火害後補修手法として、増し締め処理がすべり耐力の回復効果が非常に大きいことを明らかにした。解析的な取組みとしては、鉄骨構造の火災後レジリエンスが定量可能なレジリエンス評価解析モデルを新たに構築し、火災被害(区画の大きさ)とレジリエンスの関係を定量化した。 3)各種部材レベルの耐火性能として、今まで解明されてこなかった薄板鋼梁の高温せん断座屈、角形鋼管柱の高温全体座屈と局部座屈の連成問題、柱およびワイヤ接合部の高温強度、折板屋根の高温曲げ耐力、火災加熱による歪時効の促進が破壊靭性に及ぼす影響をそれぞれ実験的に解明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の年度実施計画としていた実大鉄骨フレーム耐火実験による火災時リダンダンシー評価と、火災後レジリエンス評価に関連する火害後接合部の各種データ取得、およびこれらの研究成果の考察が順調に進んだことから、令和4年度に予定していた各種鋼部材(鋼梁、鋼柱とワイヤ接合部、屋根部材、全体座屈と局部座屈の連成問題、および鋼部材の火害後破壊靭性)の個別耐火実験(火災時の構造性能実験)と冷却後性能実験(火災後の構造性能実験)が前倒し可能となった。そこで科学研究費助成事業(科学研究費補助金)の前倒し使用申請を行い、これらの研究を開始させた。本年度は個別耐火実験に必要な実験機器と実験期間、実験担当者に恵まれていたことから、この好タイミングを逃さずに研究の前倒しを図った。大学所有の耐火電気炉を用いて各種鋼部材の載荷加熱実験、および加熱冷却後の構造実験をそれぞれ実施したため、当初の予定より大幅な研究成果(各種鋼部材の耐火および加熱冷却後の性能データ)を得られることができた。これら個別部材の耐火性能は、鉄骨造建物全体の耐火性能や火災時リダンダンシーを評価する上で必要となる実験データである。火災時および火害後のフレーム全体と各種部材間の耐火構造性能の関連性が明確化され、鉄骨造全体としての火災時リダンダンシーと火災後レジリエンスが総合的な評価が可能となる。なお、これらの実験データについては、次年度において、より詳細にデータ解析・考察されることになる。
|
今後の研究の推進方策 |
1)次年度は幅厚比の大きな実大鉄骨フレームの耐火実験データの検討・考察を継続し、応力再配分能力(リダンダンシー)を解析的に定量化することで、リダンダンシーの効果を踏まえた局部座屈時崩壊温度評価法を提案する。局部座屈を呈した後の荷重支持能力と変形性能、熱応力の再配分完了後のカテナリー状の釣合い機構を解析・理論的に明らかにする。さらに本年度先行実施した各種鋼部材の耐火性能(高強度ワイヤロープと柱ボルト接合部の高温最大耐力、鋼折板の高温曲げ耐力、梁の高温せん断座屈性能、鋼柱の高温全体座屈と局部座屈の連成問題)に関する研究テーマに関しては、実験温度と試験体仕様を変更した耐火実験を行い、これら各種鋼部材の火災時の荷重支持能力の定量化と構造全体のリダンダンシーに及ぼす影響因子の検討・特定を行う。 2)本年度は鉄骨造に対する火災後レジリエンスの評価モデルを新たに構築し、火災範囲と補修・復旧日数の関係を定量化することが可能となった。次年度は、構造と火災規模、火災荷重と火災性状、耐火被覆量をパラメータとしたレジリエンス解析を実施し、火災後レジリエンスに影響を及ぼす諸因子を詳細に明らかにする。さらに迅速な復旧を可能とするためには既存の火害診断技術の改良が必要となり、本年度はボルト接合部の火害評価技術を構築するために、高力ボルト接合部の加熱冷却後の実験データ(ボルト軸力とすべり耐力の低下量、火害後補修による性能向上)を得た。次年度はこれら実験データから実際の火害診断で利用できる火害損傷判定方法を構築する。さらに近年の高強度鋼の適用拡大傾向を踏まえ、実験データが皆無の超高強度高力ボルト(F14T)と高強度鋼柱を対象として、火害診断を行う上で必要となる加熱冷却後の各種材料特性を詳細に検討する。これらの研究により、火害診断法と補修法から火災後レジリエンスの定量化までが検討可能な評価モデルの構築を図る。
|