研究課題/領域番号 |
21H01475
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉野 未奈 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80758368)
|
研究分担者 |
林 康裕 京都大学, 工学研究科, 教授 (70324704)
鶴岡 典慶 京都女子大学, 家政学部, 教授 (80883628)
壇 一男 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (90393561)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 伝統木造建物 / 歴史地震 / 固有振動数 / 地震動予測 / 応答解析 |
研究実績の概要 |
1年目は、1596年慶長伏見地震、1662年寛文近江若狭地震・1830年文政京都地震といった歴史地震を対象として、地震被害に関する情報をデータベース化した。 1) 地震環境の把握:活断層の位置や断層長さ、京都市域全体の地形区分を文献により把握した。また、地盤構造についてはボーリングデータを収集するとともに、東福寺境内および周辺での地盤の常時微動計測を多数実施した。そして、地震動評価の準備として、地震動の推定に必要となる要素地震のデータ収集を行った。 2) 歴史地震の分析:代表地震での住宅・寺社の被害分布を把握した。まず、文献史料に被害が見当たらない場合に建物が存在していないか・被害がなかったのかを確認するために、代表地震の生じた時期の市街地分布を文献史料により把握した。次に、住宅の耐震性能の変遷を確認するために、各時代の構造的特徴(間取り・壁などの構造部材・屋根葺材など)を文献史料や絵図などから把握した。そして、歴史地震に対して、住宅については被害範囲を、寺社に関しては具体的な被害建物を把握した。 3) 建物の振動特性評価:東福寺内の構造物(建物・門・鐘楼・木橋・築地塀)を対象として、加速度計を用いた常時微動計測を実施して振動特性(固有振動数と固有モード)を把握した。次年度以降、室内に入ることができない建物や加速度計を設置できない構造物に対しても固有振動数を把握することができるように、レーザードップラー振動計による非接触の常時微動計測も同時に実施し、レーザードップラー振動計による計測の有用性を確認した。さらに、1)、2)の結果も踏まえて、1596年慶長伏見地震における東寺と東福寺の被害様相の差を分析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度が研究の初年度であるが、当初予定していた1)地震環境の把握・2)歴史地震の分析・3)建物の振動特性評価を予定通りに進めることができた。 特に、東福寺の多数の構造物や地盤の常時微動計測を実施して、1596年慶長伏見地震における東寺と東福寺の被害様相に差が生じた要因を検討することができた。この検討は、本研究テーマである京都の歴史的大地震でも倒壊を免れた伝統木造建物の要因分析に関わる重要な進捗である。 また本年度は、レーザードップラー振動計を新たに購入し、非接触による構造物の振動計測が可能であることを確認することができた。よって、次年度以降に実施する振動計測もレーザードップラー振動計を用いて円滑に実施できると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目は、前年度作成の地震環境・建物のデータベースに基づいて、地震動を評価するとともに建物群の応答解析を実施することにより、代表地震に対する建物群の被害を把握する。 1) 地震動評価:代表地震での京都市内各地の地震動を特性化地震動で表現する。特性化地震動とは、パルス性地震動を数少ないパラメータ(パルス特性値)で表現した単純な波のことであり、地震動の特徴を保持しているため精度高く建物応答を評価できる。代表地震のモーメントマグニチュード、各地点での断層からの距離・地形区分・地盤・被害状況から取りうるパルス特性値(振幅・周期・継続時間)の範囲を決定する。一方で、京都市内の特定の観測点で得られた要素地震を用いて、経験的グリーン関数法により慶長伏見地震を対象として地震動を評価する。得られた観測点での地震動と特性化地震動とを比較することで、特性化地震動を被害評価に使用することの妥当性を検証する。 2) 建物群の被害評価:建物の応答解析モデルとして固有振動数の応答変形角依存性を表す動的変形特性を作成する。住宅は、推定される重量・耐力の範囲から時代ごとの建物の固有振動数分布をモデル化し、動的変形特性を構築する。寺社については、建物ごとの固有振動数・建物高さから個々の動的変形特性のモデルを作成する。住宅群・寺社についてモデル化した動的変形特性を用いて応答スペクトル法により最大応答変形角を求める。どのような地震動で応答が大きくなるかを、特性化パルス地震動を入力として確認する。被害が大きくなる地域が、史実と整合するかを確認し、各地点でのパルス特性値の範囲を推定する。
|