研究課題/領域番号 |
21H01486
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
持田 灯 東北大学, 工学研究科, 教授 (00183658)
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研究分担者 |
石田 泰之 東北大学, 工学研究科, 助教 (20789515)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メソ・ミクロ気候解析 / 強風災害 / Breathability / 将来予測 / Large-Eddy Simulation / 風環境計画 / 風洞実験 |
研究実績の概要 |
1.高層建物が周囲の低層建物に作用する風圧力に与える影響に関する風洞実験: 昨年度から引き続き、高層建物の形状(四角柱、円柱、三角柱)、市街地のグロス建蔽率(11%、25%、44%)を変化させたケースの風洞実験を行い、それぞれ低層建物に作用する風圧力を定量的に評価した。これにより、当初計画していた全実験ケース実施が完了した。今年度はこれに加えて、高層建物の高さ(低層建物高さの3倍、5倍、7倍)、また、風圧力を計測する低層建物1棟と高層建物1棟の計2棟のみが存在する条件下の風洞実験、さらに、風圧力と風圧力計測建物近傍の風速の同時測定を行い、知見を蓄積した。 2.風洞実験条件を再現したLarge-Eddy Simulation: 風洞実験により、高層建物の直ぐ風下側にある低層建物の屋根面に大きな負圧が作用することが明らかになった。この大きな負圧がどのような要因で発生しているのか明らかにするため、非定常的な流体現象を高精度に予測可能なLarge-Eddy Simulationによる流体解析を実施した。その結果、高層建物からの剥離流、及び風上側の低層建物からの剥離流が、評価対象の低層建物の屋根面に作用して局部負圧を発生させることが明らかになった。 3.WRFによる風環境の統計的性状の将来変化: 昨年度に引き続き、2000年代と2050年代を対象とする領域気象モデルWRFによる気象解析を行い、各々の風速の確率密度分布から風環境の統計的性状の将来変化の地域差を分析した。沿岸部においては、2050 年代は2000 年代と比べて風速の平均値が約9%減少したが、最大値(強風)は約7%増加し、確率密度を表現するワイブル係数は減少する結果となった。これに対し内陸部におけるワイブル係数の変化は1~3%にとどまり、風速の出現頻度や確率密度分布の形状変化はほとんどないという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述の1.「高層建物が周囲の建物の風圧力に与える影響に関する風洞実験」において、当初計画以上に研究が大幅に進んだため、当初予定されていなかった高層建物の高さを変更させた条件下の風洞実験、また、周辺市街地の影響を評価するための、風圧力を計測する低層建物1棟と高層建物1棟の計2棟のみが存在する条件下の風洞実験、さらに、風圧力と、風圧力を計測する低層建物近傍の風速の同時測定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1.今年度まで実施してきた風洞実験の結果により、高層建物の周辺の低層建物に強い風圧力が作用する市街地形態条件(グロス建蔽率、高層建物の高さ・形状)が明らかになった。今後も、前述の市街地形態モデルを対象とするLarge-Eddy Simulationを実施し、強い風圧力が生じる要因を明らかにするとともに、高層建物および周辺の市街地形態の違いが市街地のBreathability(Breathable: 呼吸しやすさ)、歩行者レベルの平均的な風通し、瞬間風速の確率密度分布、市街地内の圧力分布等に及ぼす影響を明らかにする。 2.気候変動が進む将来における強風の発生頻度と強度の変化を分析する。具体的には、領域気象モデルWRFを用いて、2000年代と2050年代の各々の代表年1年間について東京首都圏(東京都隣県5県)を対象として実施し、年間の風環境の統計的な性状の将来変化を定量的に評価する。 3.上記で得られた知見を統合し、ビル風を始めとする風環境アセスメント法、建物の風荷重評価法に基づき、平常時には一定の風通しが保たれ、稀な強風時には周辺建物の安全性が確保される高層建物の周辺建物の形態および配置の在り方を明らかにする。成果は、16th International Conference on Wind Engineering(イタリア)、11th International Conference on Urban Climate(オーストラリア)、日本風工学会年次研究発表(熊本)、日本建築学会年次大会(京都)等で発表し、国内外の研究者の意見を求める。そして、将来(2050年代)の気候条件下でも有効な風環境計画のための基礎理論を再構築する。
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