研究課題/領域番号 |
21H01490
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原田 和典 京都大学, 工学研究科, 教授 (90198911)
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研究分担者 |
仁井 大策 京都大学, 工学研究科, 助教 (50414967)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 木造耐火構造 / カラマツ集成材 / 燃え止まり / 炭化層 / 脱落 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
本年度は、カラマツ集成材で製作した壁試験体を用いた耐火試験を行い、加熱時間およびその後の放冷時間を種々の値に変えて、表面に形成される炭化層厚さおよび脱落形状の測定と、そのモデル化を進めた。 木材が火災加熱を受けると、表面に炭化層が形成される。炭化層が厚くなるとその断熱効果により内部への熱伝達を抑制し、内部の劣化を遅延できる。そのため炭化層を厚く保持できる樹種は耐火性に優れている。加熱中だけでなく、加熱後の放冷時にも炭化層がしっかりと保持されており、内部への赤熱の侵入がなければ、自ら燃え止まる耐火性も有すると考えられる。 これらのことを定量化するため、炭化層を保持できる最大厚さを測定した。耐火試験炉において厚さ150mmのカラマツ集成材の壁試験体を加熱して表面に炭化層を形成させた。加熱および放冷後には即座に消火し、残存した炭化層の形状を非接触のレーザー変位計で測定した。その結果、炭化層の表面形状のデータを詳細に得る事ができ、炭化層の厚さに加えて、炭化層が脱落する際の典型的な厚さと幅について定量化を行った。 これらのデータから、加熱中および放冷中の炭化層の安定性をモデル化し、炭化層の残存形状を燃え止まり予測の数値解析プログラムに実装し、炭化層の安定性の効果を定量的に検討することが可能となる。これまでの燃え止まり予測プログラムにおいては、炭化層の成長と収縮による亀裂発生を単純化した経験的モデルを用いてきたが、脱落は考慮できていなかった。本年度の実験成果に基づき、加熱時間による炭化層厚さの増加に伴う表層部の部分的脱落を考慮した数値解析を行うためのデータを揃えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、幅1,200×高さ1,000×厚さ150mmのカラマツ集成材壁試験体を用いて9回のISO 834耐火試験を行った。加熱時間および放冷時間の影響を調べるため、加熱時間は60、75、90、120分の4種類、放冷時間は0、60、180分の3種類とした。 試験体の全乾密度は520kg/m3、重量含水率は11.0%であった。試験体の温度は、0mm(加熱側表面)および加熱側表面から20~140mmの深さ、および裏面で測定した。熱電対は直径2.5mmのK型シース熱電対とし、試験体の炭化収縮が生じても測定位置が変わらないようにした。含水率計は直径1.6mmのステンレス電極を5mm間隔で2本挿入し、線間の電気抵抗を絶縁抵抗計で測定して含水率に変換した。加熱および放冷後には、約5分の観察の後に速やかに消火し、炭化層の残存形状をレーザー変位計で測定した。 放冷時間0分の結果について試験終了後の加熱面の様子を比較すると、脱落性状には、加熱時間の影響が顕著であった。60分加熱では大きな脱落は見られず、表層の亀裂は綺麗なアリゲーターパターンを保っていた。加熱時間が75分、90分の場合は、比較的小さな部分的脱落が散見された。120分加熱では、脱落部分が連結し、広範囲の脱落が生じている部分が数カ所見られた。加熱時間90分の結果について、放冷時間の影響を調べると、放冷時間0分では若干の脱落が見られるのみであるが、60分放冷後は数個のアリゲーターパターンが連結して脱落した部分が見られる。180分放冷後では、広範な脱落が生じている。類似の傾向は、加熱時間60分、75分、120分でも見られ、放冷中にも若干の脱落が生じていることが推定された。残炎および残じん(赤熱)は、脱落部および大亀裂の底部に見られた。そのため、脱落が起こると燃え止まりが阻害される可能性が示唆された。 上記の進捗状況は、当初計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで作成してきたサブモデルを統合し、燃え止まりを考慮した木質構造部材の耐火性予測数値解析モデルを開発し、その検証を行う。1)炭化層先端位置の定式化については、温度を手掛かりとして炭化深さを求める方法をモデルに組み込む。2)炭化層形状は、亀裂や収縮による変形をモデル化し、2021年度および2022年度の測定結果から、亀裂寸法、幅深さ比、亀裂間隔といった基本的形状をモデル化する。3)炭の酸化による赤熱反応速度は、燃え止まりの有無を左右する直接的な特性値である。これに関しては、2022年度に科研費とは別枠で行われた実験結果が利用可能であるので、その結果を参照して赤熱反応の速度式を構築する。4)炭化層の保持可能厚さは部材内部の健全性に関わる重要な要因である。加熱が長時間になると表面に形成される炭化層が厚くなり断熱効果が期待できる。しかし、炭化層が厚くなりすぎると自重により脱落して未炭化の木材表面が露出し、再燃する恐れがある。2022年度に行った実験により、炭化層の保持可能厚さのデータが得られているので、それを使って自重による脱落をモデル化する。 モデルの検証のため、耐火試験炉において種々の加熱曲線および放冷曲線に従ってカラマツ壁を加熱・放冷した場合の炭化および燃え止まり性状を測定する実験を行う。実験では、2021~2022年度と同じカラマツ集成材を用いるが、加熱温度が実火災に近い場合も想定して炭化性状と燃え止まりの有無を調べる。加熱温度が高い場合には、炭化層の損傷が大きく、燃え止まりが起こりにくいことが想定される。逆に、加熱温度が低い場合には、長時間加熱になると炭化層の脱落が起こりやすくなる可能性もある。構築したモデルでこのような性状が定性的にも定量的にも正しく予測できるかどうかを調べ、燃え止まり部材の設計のために実用化することを試みる。
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備考 |
厚さ 100mm のカラマツ集成材の壁の耐火試験の様子と、試験後の切断面の写真を示した。放冷終了時には、表面の燃焼は収まったが炭化層内部に若干の赤熱部が残り、完全な燃え止まりには至らなかった。赤熱部も含めて、自己燃焼を停止する部材を開発すれば、木造で中層・高層の建築物を実現する可能性が広がります。燃え止まり設計とは、このような部材を設計するものです。
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