本提案では、低レイノルズ数流れにおいて、運動する翼面上の流れの離脱位置、層流/乱流の境界層遷移位置、再付着位置の時空間変化を可視化(検出)する技術を 確立することを目的としている。その手段として、カーボンナノチューブを薄膜化したヒータ(cnt)と感温塗料(TSP)を組み合わせたcntTSPをベースとした計測技術を応用する。具体的には、運動する物体における微小な温度変化をcntにより加熱することで増幅し、TSPを用いて、温度変化による発光強度変化を捉える技術である。層流/乱流の熱伝達率を利用した流れ場可視化の例は数多くあるが、運動する物体に適用した例はこれまでになく、時系列的な検出を行った研究はこれまでになく、世界初といえる。 昨年までに、cntTSPを回転翼ブレード上の流れ場計測に用いることで、開発したcntTSPの有用性を実証した。実証試験では、回転数500 rpm、翼端速度7.2 m/sという低速条件において、定常流れであるホバリング状態と非定常性を伴う前進飛行状態のロータで、それぞれブレード表面流れを可視化し、その流れ場を議論した。 今年度は、流れ場のより詳細な議論をするために得られた温度分布の時系列画像より、レイノルズアナロジーを利用して、摩擦応力分布に変換した。これによりこれまで温度分布による定量的な議論から一歩進んで、剥離・再付着位置の同定がより明確となった。特に回転するブレードの前縁剥離渦(Leading Edge Vortex)の形成がはっきりと見られ、力計測で得られた推力やトルクの数値を議論する際に非常に有力なツールになることが分かった。 これらの結果は、低速における運動する物体の非定常流れ場の計測技術として、ここでの開発したcntTSPが有用であることを示している。
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