研究課題/領域番号 |
21H01537
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
堀 恵一 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 専任教授 (40202303)
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研究分担者 |
戸野倉 賢一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00260034)
津越 敬寿 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (20277271)
和田 豊 千葉工業大学, 工学部, 教授 (20553374)
三島 有二 株式会社神戸工業試験場(生産本部技術開発部), 技術企画室, 研究員 (30501689)
坂野 文菜 日本大学, 理工学部, 助手 (40961735)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハイブリッドロケット / 燃焼 / 高分子燃料 / 熱分解 / 反応動力学 |
研究実績の概要 |
本研究は①ハイブリッドロケット燃料後退速度向上、②高加熱速度下での熱分解分析技術開発、③熱分解機構モデル化を三骨子としている。①昨年度は燃焼中のEG添加LT燃料表面の観察を実施した。その結果、EGが燃料表面で膨張し赤熱している様子を観察した.高熱伝導率を有するEGが火炎からLT燃料表面への熱伝達量を増加させ,燃料の溶融・ガス化を促進し燃料後退速度が向上したと考える.また低酸化剤質量流束域での燃料後退速度の顕著な向上が確認された.これは赤熱化EGによるLT燃料表面への輻射熱伝達量増加効果によると考える.さらに,O/Fが3以上の領域において,EG無添加LT460と比較し7%の特性排気速度が向上したことも確認した。②大気圧環境下におけるスキマーIF接続型Py-IA/MS装置を用いた熱分解ガス計測を実施した。分析手法を確立させるため考察が容易なポリスチレンとパラフィンオイルを対象とした。結果、キャピラリー接続方式による先行研究と同等の検出感度で熱分解ガス計測が達成できた他,接続方式に由来する特徴的傾向が得られた。さらに高圧下での観察を可能にすべく、加熱部品は従来品を使用しつつ容器を加圧できるよう設計を進めた。高圧の加熱炉と大気圧のスキマーIF先端部の境界部に板厚変更可能な金属オリフィス板を設置することで,加熱炉内の圧力の調整を可能にした。概念設計は完了と判断している。③初年度に構築したLT燃料熱分解モデルで燃焼阻害因子と特定したエチレンに着目し、含酸素化合物の添加によりエチレンの熱分解生成量を低減させ燃料後退速度の改善を図った。実験結果から含酸素化合物添加剤により熱分解におけるエチレン生成量が減少することが分かり、燃料後退速度の改善が見込まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイブリットロケット燃料の後退速度向上のためには燃焼試験による実験的アプローチに加えて、高加速燃焼場の熱分解反応の化学反応を解明する研究アプローチが重要である。本研究では高加速燃焼場を模擬した環境での熱分解化学反応をありのままに計測する試みと、燃料の熱分解シミュレーションモデルから燃焼阻害因子となる化学反応機構の推定を進めてきた。熱分解反応の計測では大気圧下での瞬間熱分解による模擬環境での計測システムが可能となったことを受けて、計測システムのステージを上げて、高圧環境下での瞬間熱分解により高加速燃焼場を模擬した計測システム構築に近づきつつある。また、熱分解シミュレーションモデル解析から熱分解反応過程で生成する燃焼阻害因子となる化学反応機構の推定研究も進捗しているため、未解明のまま残ってきた高加速燃焼場の熱分解反応の化学反応を解明する研究アプローチが進展すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の計画を以下にまとめる. ①燃料後退速度向上研究では,LT燃料の燃焼系にV2O5などの酸化触媒を追加することで速度向上に向けた一連の研究を推進する.酸化触媒は,LT燃料に混練して使用する他,酸化剤(酸素ガス)と共に触媒微粒子を燃焼器内に噴霧し,推力100 N級から5000 N級の燃焼試験で速度計測を行う. ②熱分解反応計測研究では,前年度までの研究において大気圧での熱分解反応のリアルタイム計測ができる装置の運用が軌道に乗った。今年度は測定試料およびキュリー温度を変更した熱分解ガスのリアルタイム計測を実施する。具体的には前年度に分析手法が確立したスキマーIF接続型Py-IA/MS装置を用い,ロケット燃料などを用いた大気圧条件下での熱分解ガス計測を実施する。また、前年度にロケット燃焼場を模擬した高圧環境下での熱分解反応のリアルタイム計測に向けた高圧反応容器の設計を進めた.今年度は前年度の設計仕様に基づき高圧反応容器を試作した上で、まずは高圧急速加熱炉の試運転(高圧急速加熱の部品加工と組立て)を実施し、平行して高圧ガスを安全に運用するための配管および流量調整バルブの選定を進める。その上で、より実環境に近い状態でのリアルタイム計測を可能にするシステムの研究を行う. ③反応機構モデル化研究のこれまでの研究では,ANSYS 2022R1 Chemkin-Proを用い,CRECK Modeling Group のケロシンサロゲート燃料の燃焼機構簡略化モデルをベースにLT燃料の主要成分の一つであるパラフィンの化学反応シミュレーションの研究を行った.最終年度はLT燃料の他の構成成分への拡張や使用する詳細反応モデルの改良を研究し,燃料後退速度を向上させることを阻害している反応機構の検討など,燃焼・熱分解反応の反応機構モデル化研究を進展させる
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