自動車交通事故を対象として,社会インフラとしての先進事故自動通報システムが普及していない交通環境にある国々の交通事故での人体傷害を予測するために,事故地点の環境情報(制限速度,事故類型等)と生存時間を考慮した「現場救急傷害予測アルゴリズム」を開発することを目的とした研究を実施した.研究は人口密度が低く,大陸であるために外傷センターまでの距離が遠く,旧型車も数多く走行しているオーストラリアを対象とし,特に南オーストラリア州の事故についてアデレード大学と連携をした研究を実施した. 研究三年度目の本年度は,前年度までに構築した救命時間の効果を考慮した傷害予測アルゴリズムの検証のために,オーストラリアで発生した事故事例について,1件毎に傷害予測計算を実施した.ここでは構築した傷害予測アルゴリズムについて,検証用データを用いて実傷害と予測結果によって重傷事故を重傷と正しく判定したケース,重傷事故を軽傷と誤判定したアンダートリアージと呼ばれるケース,軽傷事故を重傷と誤判定したオーバートリアージと呼ばれるケースに分類して検証を実施し,適切な通報しきい値を導くことができた.その結果,救急搬送時間,救急車やヘリコプター等の搬送手段,解剖学的損傷程度等のデータを傷害予測アルゴリズムに混成し,重傷と予測された負傷者に救急車やドクターヘリの早期出動を実現するための世界初の「現場救急傷害予測アルゴリズム」へと発展させることができた.
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