研究課題/領域番号 |
21H01607
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐原 亮二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究センター, グループリーダー (30323075)
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研究分担者 |
成島 尚之 東北大学, 工学研究科, 教授 (20198394)
上田 恭介 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40507901)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸化速度定数 / チタン / 表面酸化 / プロセスインフォマティクス / 機械学習モデル |
研究実績の概要 |
今年度は、酸化特性の重要な指標である酸化速度定数を予測する機械学習モデルを構築し、得られた予測値について、協同研究者である実験家が求めた実験値との比較をおこなった。本モデルでは、入力データとして過去に論文報告されている実験値を100件のオーダーで収集し、合金組成、微細組織情報(α相やβ相といった情報)、酸化条件(温度、時間、湿度の有無、一定温度の酸化かサイクリック酸化か、という情報)をインプットデータとし、ターゲットとして酸化速度定数とした。機械学習モデルにはGradient Boosting、Random Forest、k-Nearest Neighborsモデルを導入した。酸化速度定数の予測性能はGradient Boostingモデルが一番良い精度を示し、実験と予測値は概ね良い一致を示すことを確認した。本モデルでは合金組成を予測するだけではなく、チタン合金の微細組織の情報や酸化温度、湿度の有無といった実験条件をインプットとして利用するため、チタン合金酸化の実験条件を検討可能なプロセスインフォマティクスモデルが構築できた。協同研究者である実験家が求めた実験値との比較をおこない、実験値と予測値が概ね一致することを確認し、機械学習モデルの妥当性を確認できた。 さらに、チタン表面酸化の研究を熱力学的解析へ拡張するため、予備計算を進めている。今後はチタン多元系合金の例として三元系合金を選び計算状態図作成を進めている。自由エネルギーは、電子系のエネルギー(0ケルビン)、混合エントロピーの寄与、格子振動の寄与、電子の熱励起の寄与、スピンオーダリングの寄与として評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、酸化特性の重要な指標である酸化速度定数を予測する機械学習モデルを構築した。本モデルを用いて得られた酸化速度定数の予測値と実験家が求めた実験値を比較することで、本モデルの妥当性を確認できた。本モデルは入力情報として合金組成、α相やβ相といった微細組織情報、温度、時間、湿度の有無、一定温度の酸化かサイクリック酸化かという実験情報を、過去の実験論文から収集しデータベースを作成した。機械学習モデルにはGradient Boosting、Random Forest、k-Nearest Neighborsモデルを導入した。酸化速度定数の予測性能はGradient Boostingモデルが一番良い精度を示し、実験と予測値は概ね良い一致を示し、プロセスインフォマティクスモデルの一例として成功した。 実験データに依存しない第一原理のみによる合金状態図計算の実現については、自由エネルギーは、電子系のエネルギー(0ケルビン)、混合エントロピーの寄与、格子振動の寄与、電子の熱励起の寄与、スピンオーダリングの寄与として評価を進める。ここで混合エントロピーの寄与はBragg-Williams近似で、格子振動の寄与は調和近似で評価する。さらに電子の熱励起の寄与は電子の状態密度から評価する。固溶体の原子ランダム配置にはSQS(Special Quasirandom Structure)モデルを導入する。 上記の進捗が得られているため、今年度は概ね順調に研究が進捗できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
チタン表面酸化の研究を熱力学的解析へ拡張する予定である。特に、チタン多元系合金の計算状態図作成を行う予定である。その際、新型コロナウイルス感染症による度重なる来日延期のため、雇用予定の研究協力者が他研究機関へ移ってしまい、令和4年7月に着任することができなくなった。そのため新たな研究協力者を探す必要が生じた。 さらに、酸化チタン(アナターゼ)の工業的な応用を検討するために、光触媒材料であるアナターゼ型酸化チタン(TiO2)にC, Nを添加することで可視光応答性を有する可視光応答型抗菌機能を有する生体材料開発を進める。通常の密度汎関数理論に基づくDFT計算はバンドギャップを実験値より過小評価する事が知られている。本課題ではこの問題を解決するため準粒子近似に基づく全電子GW計算を遂行する予定である。なお全電子GW計算には研究代表者も開発グループの一員である全電子混合基底法に基づく第一原理計算プログラムTOMBO (TOhoku Mixed Basis Orbitals ab initio program)を用いる予定である。これによりC, N添加アナターゼのバンドギャップの定量評価およびそのバンドギャップ狭窄メカニズムを明らかにする予定である。なお本研究は、GW計算を電子励起状態を考慮して原子組み替え反応(化学反応)を定量的に議論するダイナミクス計算へ展開するために必要な研究である。
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