研究課題/領域番号 |
21H01609
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
藤田 麻哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (10323073)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 磁気熱量効果 / 遍歴電子メタ磁性転移 / 断熱温度変化 / 非平衡過程 |
研究実績の概要 |
巨大磁気熱量効果を示すFe系遍歴電子メタ磁性材料において、磁気熱量効果の指標の一つとされる「断熱温度変化」に注目し、i) 物理的な素過程としての断熱変化と遍歴電子メタ磁性転移の関連について解明し、ii)磁気冷凍サイクルを形成する上で必要となる断熱過程が他のサイクル過程にどのように連結して行くのか、基礎と応用の両面から、断熱温度変化過程を追求することを主眼として研究遂行してきた。 前年度に続き、単純な温度計測だけに頼った従来の断熱過程観測を超えて、磁気状態変化を直接把握するために、前年度着手したin-situの高速磁化率測定の最適化を進め、前年度判明した断熱過程の始/終状態の平衡過程とは異なる変化パスの特異性を詳細に調べた。断熱温度変化が増幅されるのは2相共存状態であることは従来よりわかっていたが、断熱過程では、平衡過程から到達する2相共存点とは別の状態に落ち込み、その状態は磁化と温度の関数としての自由エネルギーF(M,T)の極小点(平衡点)ではない準安定点を連続的に経由することが推察された。実際、終状態を維持して一定磁場/環境温度下におくと、2相共存でありながら共存相バランスが変化する緩和挙動が観測された。この点についてさらに考察するために、前年度着手したF(M,T) のランダウ展開型解析を進めたところ、理論的に予測される断熱パスは、F(M,T)の極大付近の鞍点付近に存在することが予見された。この理論的予測は実験結果と矛盾しないため、この手法をさらに進めていくが、特に終状態に関して、通常の平衡過程における極小点トラップのシナリオが通用しないため、どのような要因が終状態を決めるのか、について今後重点的に考察を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たな観測手法の開拓は順調に進展しており、物理的考察に利用できるようなデータも取得され始めた。また、理論モデルに基づいた自由エネルギーのランダウ展開型解析も、フッティングパラメータを最適化することで、実験結果をうまく考察する手がかりが得られており、実際、本年度の実験データから断熱パスとして物理的妥当性のある経路が見え始めており、今後の展開には、この結果を基軸として、相転移挙動(2相共存や履歴など)を取り込む下地の構築がほぼ完了した。 一方、中間点の本年度において、ここまでの結果を論文化して公表し、同分野の海外含む専門家からのフィードバックを得るべく、論文特集号の招待執筆に応える計画であったが、出版社の都合により出版工程に遅れが生じた旨の連絡を受けたため、この部分だけ2023年度に繰り越して実施することとした。なお、解析等へのフィードバックからの修正を後ろ倒しにすることになるが、相転移履歴の影響等に関するモデルの構築を先倒すことで、考察に遅れを生じることなく遂行順を入れ替えられるように計画変更を策定した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに開拓した実験手法とモデル解析手法に基づき、次年度は特に、相転移のキネティクスと断熱過程ダイナミクスを関連づけるために、時間スケールを含む動的な挙動について考察を広げて行く。特に、1次相転移の過渡過程として付随する履歴現象と、断熱パスの始状態・終状態の関連を、履歴の動的成分を考慮して検討して行く。これらの点は、学理としての非平衡相転移熱力学への寄与だけでなく、磁気冷凍方式を工学的に実現する上でも重要な手がかりとなる。すなわち、動的履歴挙動の把握により、磁気冷凍実現に望ましい断熱温度変化の増大につなげる方策を検討する。
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