研究課題/領域番号 |
21H01614
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 亮 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (20734156)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 原子分解能電子顕微鏡 / 貴金属ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
酸化物基板に担持された貴金属ナノ粒子は代表的な不均一触媒であり、有害なガスの非毒化や排ガスの処理に広く利用されている。これまでに、新たな担持材料の探索および単原子レベルで貴金属を分散するなどの技術開発の積み重ねにより、触媒の安定性、特性および適応範囲は大きく改善された。しかし、触媒活性点(原子サイト)や触媒発現・劣化機構などの基礎的な問題については未だ不明な点が多く残されている。触媒材料の新展開にはこれらの問題に対する本質的な理解が必要不可欠である。劣化機構の中でも、70年代に提案された強い金属・担体相互作用(SMSI: Strong Metal Support Interaction)が現象としては広く受け入れられているものの、原子レベルでの劣化機構としては、議論の余地が残されている。今年度は代表的なTiO2/Pt系に注目し、還元雰囲気での加熱による触媒劣化の原因を探求した。
電子顕微鏡中で加熱を行い、白金ナノ粒子の粒径および積層構造を原子分解能観察により解析したところ、温度の上昇に伴い積層構造が変化することが明らかとなった。また、粒径は単に大きくなるだけではなく、粒径の分散も大きくなることが明らかとなった。積層構造との関連があり、格子整合度の低い高次の積層構造の場合は粒成長が抑制される傾向にある。また、高温領域(700℃)では、基板に含まれるTiとの合金化が進み、Pt-Ti合金ナノ粒子の形成が観察された。これらが、触媒劣化の主な原因と考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TiO2/Pt系に着目し、電子顕微鏡内での加熱によるナノ粒子の構造変化を明らかにした。加熱による結晶粒成長に伴い、ナノ粒子と基板との方位関係が変化することを明らかにした。また、粒成長は白金ナノ粒子の凝集に伴うものと、基板に含まれるチタンとの合金化により進行する2種類が存在することを確認した。電子エネルギー損失分光による電子状態解析を行ったところ、白金ナノ粒子に含まれるチタンは金属であり、TiO2の最表面は3価に還元されていることが明らかとなった。したがって、担持された白金ナノ粒子は負に帯電しているものと考えられる。
電子顕微鏡による深さ断層法を高精度に行うには、焦点位置を高精度に制御する必要がある。本年度は、従来の10倍高精度に制御が可能な高圧変動機構を構築した。これにより、焦点位置を0.01nm以下で制御することが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、高品位な貴金属ナノ粒子を酸化物基板に担持する手法を確立した。特に、電子顕微鏡内での真空加熱は、大気を介さないため、極めて清浄なナノ粒子となる。今年度に構築した高圧変動機構を利用し、形成されたナノ粒子の3次元構造解析を実施する。得られる深さ断層像には多くの量子ノイズが含まれているため、これらの影響を低減するための解析手法を確立する。具体的には、ベイズ推定(マルコフ連鎖モンテカルロ法)を拡張することにより、大域最小となる回帰と回帰誤差の見積もりを同時に行う。また、新たな系として、SrTiO3/Ptを検討する。
|