研究実績の概要 |
当該年度では、圧電性と誘電性のトレードオフ関係が他の材料系でも発現するのかについて明らかにすることを目的としている。そこで、強誘電体の中で最も実用されており、300℃近傍にキュリー温度を持つPb(Zr,Ti)O3膜を対象とした。 水熱法により240℃以下の温度でPb(Zr,Ti)O3膜を作製することで、前年度まで対象としていた(K,Na)NbO3膜と同様の“トレードオフ関係の破れ”に起因する強誘電性ヒステリシスループと圧電応答カーブが観測され、ループのシフト状況から自己分極状態であることも分かった。これより、キュリー温度以下での成膜による特異なドメイン構造が起因していると推測された。 そこで、X線回折測定および透過電子顕微鏡観察により、低温成膜されたPbTiO3膜のドメイン構造を解析したところ、相転移を経由した膜とは異なる正方晶相由来のドメイン構造を形成していることが明らかとなった。また、成長方位を変化させることで、膜/基板界面で生じるミスフィットストレインが形成するドメインの選択に大きく寄与しているため、低温成膜特有のドメイン構造が形成したものと結論付けられた。 以上の結果より、相転移を経ない成膜プロセスにより、膜内に自己分極状態を実現することができれば、圧電性と誘電性のトレードオフ関係の打開が可能であると分かった。また、種々の強誘電体材料にも適応可能であることから、発電性能指数を増大させるための材料設計指針となり得る。
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