研究実績の概要 |
AlN[(Al,Sc)N]は、六方晶の対象中心の無いウルツ鉱構造を有し、膜厚300nmの分極軸であるc軸一軸配向膜について強誘電性が実験的に確認された。研究代表者は、この強誘電性の発現起源の違いがサイズ効果と深く関係しており、強誘電性の起源がHfO2に近い蛍石構造やウルツ鉱構造強誘電体では、サイズ効果はほとんど観察されないと考えている。本研究の目的は、巨大強誘電性を有するAlN基エピタキシャル膜を作成し、その巨大強誘電性の詳細な解析を行うことで、“サイズ効果”の起源を解明することである。本研究では、(Al,Sc)Nおよび(Ga,Sc)N膜を作成し、その強誘電性を調査した。
(Al,Sc)Nでは基板から受ける応力によって薄膜化するほど結晶の異方性が大きくなり、結果として分極反転に必要な電界(Ec)は膜厚10nmまではより大きくなることが判明した。一方、残留分極値には大きな膜厚依存性は観察されなかった。結晶異方性と分極反転に必要な電界(Ec)を評価すると、膜厚にかかわらずEcは歪みで整理できることが明らかになった。このことは、 (Al,Sc)Nでは残留分極値およびEcは、歪が一定の場合には大きな膜厚依存性が観察されない可能性があることを示唆している。また、(Ga,Sc)N膜では、Ecの値は結晶異方性より膜中のSc/(Al+Sc)比により強く影響される可能性があることが示唆された。現在、(Al,Sc)Nと (Ga,Sc)N膜を統一的に理解可能な方法を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
(Al,Sc)N膜では、現状薄膜化による大きなサイズ効果は観察されていない。そこで薄膜化しても歪が大きく上昇しない電極の種類の選択を検討することで、薄膜化しても安定した強誘電性が得られるかを検討する。また、 (Ga,Sc)N膜では結晶歪の効果が顕著に現れていないので、サイズ効果が (Al,Sc)N膜と異なっている可能性がある。更に薄膜化による結晶配向完全性の変化の効果も、エピタキシャル膜と一軸配向膜の両方を調べることで明らかにしていきたい。
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