研究課題/領域番号 |
21H01622
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
内野 隆司 神戸大学, 理学研究科, 教授 (50273511)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超伝導近接効果 / ジョセフソン接合 / 強磁性 / フラクタル |
研究実績の概要 |
本研究では,このジョセフソン接合系複合材料としてMg/MgO/MgB2複合体を作製した。同,複合材料の物性評価を行うことで,超伝導特性の向上と新たな物性の発現,その機構の解明を目指した。超伝導特性向上のため,原料粉末の合成条件,および放電プラズマ焼結によるバルク体の焼結条件を探索した。また,高温超伝導の機構の解明にもつながると考えられる超伝導と磁性の相互作用の観点から,常伝導相に新たに強磁性体を導入し,Mnを添加した超伝導/強磁性ナノ複合材料を作製した。 Mg/MgO/MgB2試料では,作製条件の探索を行った結果1200°C でSPS焼結した試料が,従来の微粒子系超伝導体の臨界電流密度を遥かに上回る超伝導近接効果に由来する超伝導特性を有することがわかった。MOイメージング観察では,粒界に沿って磁束が侵入する通常の多結晶体とは異なり,試料端から均一に磁束が侵入するピンニング力の強い単結晶的な振る舞いが見られた。そのフラクタル構造により,ジョセフソン接合ネットワークループが階層的に形成されることで,系全体で完全反磁性を示すバルク的な超伝導の発現が可能となったと考えられる。 Mn添加試料では,フラクタル構造を有するジョセフソン接合系複合体を活用することで,超伝導体と強磁性体が空間的に分離し,かつ共存するS/N/F複合体を作製した。本複合体は,自発渦糸相の形成条件を満たすことが確認できた。磁化測定により,残留磁化による磁気モーメントの自発的な増大を観測した。また外部磁場に依存しない自発磁化の存在が確認された。ゼロ磁場μSR測定から,試料内部の磁場分布の質的・量的な変化が自発的に起こることがわかった。一連の実験において,系全体の超伝導化に伴い,ジョセフソン渦糸が自発的に形成されることと矛盾しない実験事実が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,まずフラクタル構造を有するジョセフソン接合系複合材料について,超伝導特性の向上を目的として作製条件の探索を行った。作製した材料の構造解析,磁化測定,磁気イメージング観察などから,超伝導近接効果によって誘起されるバルク的な超伝導の発現機構について理解を深めることができた。 さらに, 超伝導(S)/常伝導(N)接合部におけるジョセフソン渦糸の形成過程を,磁気イメージング観察,磁化測定,ミュオン緩和スペクトル測定から明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
未解決の問題として,Mg/MgO/MgB2複合体の室温における低い抵抗率の発現があげられる。本試料では,本来絶縁体であるMgOの体積分率が80%程度であるにもかかわらず,金属的は伝導を示している。これは,MgB2の低い含有率でのバルク的な超伝導機構発現の原因にもなっていると考えられる。今後は,なぜ,本試料が常伝導状態で低い抵抗率を示すのかについて,比熱測定,ホール測定等を通して解明してゆきたい。
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