研究実績の概要 |
本研究では,『強散乱極限に達している縮退半導体のバンド端近傍に不純物準位を形成することで著しく小さな熱伝導度と大きな出力因子を共存させる手法』を確立することを目的とする.この手法により,高性能バルク熱電材料を創製し,省エネルギー技術としての熱電発電のポテンシャルを示すとともに,研究代表者が提案してきた高性能熱電材料設計指針の妥当性を証明することを目指している. Si-Ge系熱電材料に関しては,Fe, V, Au, Niなどの不純物準位が熱電性能の向上に寄与する可能性を見出した.FeおよびAuを導入したn型試料の高性能化は既に達成していたため,2021年度はp型材料に注目して研究を行った.その結果,Niを不純物元素として用いた試料に対して,PF = 2.4 mWm-1K-1の出力因子と,ZT > 1.6の無次元性能指数を得ることに成功した. Ag2SxSe1-x系試料については,Vを1at.%導入することで,室温において,出力因子を1 mWm-1K-1から1.4 mWm-1K-1に増大させ,かつ,無次元性能指数を0.55から0.75にすることに成功した.これにより,Ag2SxSe1-x系試料が延性を有する特徴を併用すると,箔帯状の試料を用いた熱電素子が作製可能になり,機械強度の低い(脆い)Bi-Te系材料の代替材料となる可能性が広がった. CrSi2系材料については,フォノンの自由行程を短く抑えるナノ化技術を用いて高性能化を図った.理論的なフォノン解析から,ナノ粒子のバルク化により高性能化が期待できることを明らかにし.それを実験的に確認する目的で,高エネルギー遊星型ボールミルを用いたメカニカルグラインディング法と,低温高圧焼結を組み合わせることで,ナノ粒子バルクCrSi2材料を作製した.結果として,CrSi2系としては最高性能の材料を作製することに成功した.
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