研究課題/領域番号 |
21H01629
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
大澤 健男 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (00450289)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸水素化物 / エピタキシャル成長 / 電子物性 |
研究実績の概要 |
複数のアニオンを含む複合アニオン化合物が示す新奇物性(電子伝導、超伝導、圧電性、強 誘電性、触媒作用など)に注目が集まっている。特に、ヒドリドイオンはそのイオン半径が酸化物イオン半径と近いため、酸化物イオンとヒドリドが共存する酸水素化物が比較的簡便に形成され、従来の酸化物では見られない新規な電子状態や電子物性が期待される。本研究課題では、ナノスケール厚の酸水素化物エピタキシャル薄膜を基軸とし、バルク体では避けることのできない粒界散乱のない単結晶薄膜を用いて、本質的な電気伝導性やヒドリド伝導性を明らかにする。具体的には、前周期元素を中心とする遷移金属酸水素化物の新奇な高移動度電子と誘電分極が協奏するユニークな電子素子開発へ波及させることを目的とする。 本年度は、エピタキシー技術を基盤とし、重水素を用いた遷移金属酸水素化物薄膜の合成に取り組んだ。2元系の遷移金属酸化物として二酸化チタン(TiO2)エピタキシャル薄膜に着目した。従来では、NbやTa等のドナー不純物ドーピングによって透明伝導性を発現する研究が行われているが、電荷補償の点で自発的にアクセプター欠陥の導入が原則避けられない。本研究では、LaAlO3基板上に高品質にコヒーレント成長したアナターゼ型TiO2薄膜において、カチオン置換を伴わない水素ドーピング手法の条件最適化を行った。その結果、絶縁体-金属転移を誘起し、電子濃度を18乗-22乗cm-3 範囲で再現性良く制御すること、および極低温まで高移動度化することに成功した。薄膜成長時の酸素分圧と、電子濃度に相関があることから、酸素空孔密度と水素濃度が関連することが分かった。酸素欠損由来のキャリアを大幅に超える電子濃度を達成した。次年度以降では、正確な水素濃度との相関を明らかにし、水素由来の高電子濃度ならではの電子物性を調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
格子整合基板上に分子線エピタキシャル成長したアナターゼ型TiO2薄膜について、重水素プラズマによるキャリア添加に成功した。無添加では絶縁体であるのに対して、水素添加のみで電子濃度の系統的制御と金属的な縮退伝導を見出した。これらの試料では、イオン化不純物散乱の影響が小さく、低温まで高移動度化した。軟X線および硬X線光電子分光測定から、高濃度電子によるスペクトル変化を観測した。昇温脱離分析によって、試料からの水素脱離を検出することに成功し、キャリアの起源であることを確認した。これらの結果は、バルク体研究における電子濃度は21乗cm-3オーダー内の小さい変調幅を遥かに超えており、水素置換する新しいプロセスの構築とその薄膜物性の検証に有効であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降では、ペロブスカイト型複合酸水素化物薄膜へと展開し、具体的には、(Ba,Sr)TiO3-xN2x/3や(Ba,Sr)TiO3-xHxを対象とする。強誘電体BaTiO3-xHxエピタキシャル薄膜の金属伝導やヒドリド伝導が報告されるなど、新しい電子相による半導体・誘電特性が期待できる。それらの準安定相に基づく圧電・誘電特性を評価することに注力する。また、同位体酸素や同位体水素ドーピングを行い、質量分析を用いた定量評価と合わせて、強誘電体転移を検証することを視野に入れて研究を推進する。
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