研究実績の概要 |
複数のアニオンを含む複合アニオン化合物が示す新奇物性(電子伝導、超伝導、圧電性、強誘電性、触媒作用など)に注目が集まっている。本研究課題では、ナノスケール厚の酸水素化物エピタキシャル薄膜を基軸とし、バルク体では避けることのできない粒界散乱のない単結晶薄膜を用いて、本質的な電気伝導性を明らかにする。具体的には、前周期元素を中心とする遷移金属酸水素化物の新奇な高移動度電子と誘電分極が協奏するユニークな電子素子開発へ波及させることを目的とする。 初年度と次年度において、プラズマ支援分子線エピタキシー法を用いてエピタキシャル成長したアナターゼ型TiO2薄膜の水素化に取り組んだ。室温から500℃下での水素プラズマ照射によって、薄膜表面から水素導入に成功した。その結果、電子濃度が18乗から21乗cm-3 で自在に制御することができ、絶縁体-金属転移を誘起することに成功した。これらの電子濃度は、質量分析にて定量した水素濃度と同程度であることを観測したことから、カチオン不純物を必要とせず、酸水素化による透明電気伝導性の発現と制御が可能となった。 この水素化手法を3元系ペロブスカイト型酸化物薄膜へと適用した。BaTiO3-xHx、SrTiO3-xHx、および(Ba,Sr)TiO3-xHxの作製に着手した。BaTiO3-xHxについては、基板選択によって、格子歪みと格子緩和した薄膜を得た。これらの試料に対して水素化を行うと、両者の試料において低抵抗化した。特に、格子緩和したBaTiO3-xHx薄膜では金属的な温度依存性を得た。電子濃度は20乗cm-3 を超え、水素添加したBaTiO3単結晶の電子濃度(17乗cm-3)より遥かに大きく、且つこの大きな電子濃度と移動度はLaドープBaTiO3に匹敵した。格子歪みによる強誘電相の安定化を利用して、極性金属相の新しい機能を創出することが期待できる。
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