本研究は次世代パワー半導体ダイボンド技術として,毛管圧力を駆動力とした液相浸透を活用した新規接合法の開発を目的としている.本年度は,フラックスフリー化,接合層設計を中心に研究を行い,多孔質銅をインサート材としたすず合金液相浸透接合が次世代ダイボンド技術として有望であることを示した.主な結果を以下に記す. 【フラックスフリー液相浸透接合】フラックスフリー化のため,ギ酸雰囲気中での浸透ならびに接合を実施した.ギ酸雰囲気における多孔質銅中のすず合金の浸透速度は窒素雰囲気におけるすず合金ペーストの浸透速度に比して大きく,また初期の浸透速度は浸透時間に対して放物線則を示した.浸透速度は時間経過とともに液相の等温凝固によって徐々に低下した.浸透可能距離は多孔質体の構造と反応系に依存するが,ギ酸雰囲気下で多孔質銅中への溶融すず合金の浸透が可能であることが示され,銅のフラックスフリー液相浸透接合が実現できた. 【接合層設計と物性評価】多孔質体に銅,浸透材料にすず合金を適用した場合,液相浸透接合における接合層は母骨格である銅と浸透材料が相変態したCu-Sn金属間化合物(IMC)が相互ネットワーク構造を有する多相構造となることが期待される.空隙率8.0-26.7%,空隙サイズ3.7 -12.5μmの多孔質銅を焼結によって作製し,すず合金浸透によってCu-32~63vol%Cu-Sn IMCの多相構造接合層を得た.この多相構造接合層の機械的性質ならびに熱伝導率を実験および有限要素法解析によって調べた.Cu-57.5vol%Cu6Sn5の接合層の熱伝導率は130W/mKであり,Sn基はんだの2倍以上に値を示した.また同接合層のヤング率の実測値は98.5GPaであり,有限要素法解析で見積った値とほぼ一致していた.これは液相浸透によって得られた多相構造体の各相界面が十分に接合されていたことを示している.
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