本研究は、共連続相分離構造を形成する架橋ポリマーアロイ複合材中で、異種ポリマー成分が接する相分離界面近傍に機能性フィラーを自己組織的に配列させる主導原理(熱力学平衡論・速度論等)の構築を目的とする。ブレンド系全体の界面自由エネルギー最小化を指向する熱力学“平衡論”は重要であるが、線状高分子同士のポリマーブレンドとは異なり、架橋ポリマーでは相構造・フィラー分散構造の成長停止に架橋(ゲル化)やガラス化が強く影響すると考えられた。すなわち、熱力学平衡状態に至る前に架橋(ゲル化)やガラス化により相構造変化やフィラー移動が凍結され、複合材中の相構造およびフィラー分散形態が決定されると考えられるため、“速度論”的考察が不可欠である。 エポキシ/ポリエーテルスルホン/芳香族アミン/無機フィラー複合材をモデル物質とし硬化反応中の構造変化を理解するため、均一状態~相分離~ゲル化の過程における成分間相互作用変化を数値化する必要がある。その手段の1つとしてハンセン溶解度パラメータ(HSP)を評価した。相分離過程における組成分配も最終硬化物のガラス転移温度を用い推算し、各相と無機フィラーとのHSP距離を評価した。結果、フィラー表面にビニルシラン処理を行った場合は、HSP距離を相互作用半径で除したRED値の小さい場所にフィラーが入るが、塩基性や酸性を有する未処理フィラーについては必ずしもRED値の序列に従わないことがわかった。このことから、分散力、極性、水素結合力の3因子の大きさ(絶対値)のみでは成分間相互作用を表現しきれず、プロトンドナー・アクセプターの考慮が必要と考えられた。また、エポキシ成分と親和性が高いフィラーがエポキシ重合による高分子化過程で次第に混合エントロピー得を失い界面近傍に移動し、その後にガラス化・ゲル化が生じ構造凍結され、界面配列に至るという速度論因子を考慮した機構を提唱した。
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