電子ビームPVD法により、縦割れ構造を有する111配向したNaCl型TiNOセグメントを、予備酸化したTi基板上に再現性良く形成するためのプロセス条件を明らかにした。As-coatingセグメントの表面は、幅10~50 nmの棘で覆われていた。この棘構造を有するセグメント表面の凸部は凹部よりもTiが欠乏し酸素が濃化しており、しかも,表面近傍には+3、+4価のTiイオンが存在することから、凸部は凹部に比べて酸化していることがわかった。また、As-coatingセグメントのpH=中性付近のゼータ電位はわずかに負であった。 さらに、As-coatingセグメントに対して、球状圧子を用いたナノインデンテーション試験を実施し、弾性変形域内のヤング率、平均圧力を評価した。その結果、最大荷重時の平均圧力は平均咬合圧力 (< 10 MPa)よりも十分に大であることから、この条件下では棘状表面を有するセグメン構造を維持するものと予想された。 このAs-coatingセグメントに対して、JIS-Z-2801に準拠したフィルム密着法により大腸菌に対する抗菌性を評価した結果、抗菌性に優れるものの、株化骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1細胞)を用いた培養実験による細胞誘導性評価においては、現用材よりも生体親和性が低かった。 固体表面で発現する抗菌性や細胞誘導性は、表面電位の影響を強く受けるものと予想される。そこで、As-coatingセグメントを大気中において所定温度・時間で熱処理することにより、棘状構造を維持しつつ、表面酸化を進行させてゼータ電位をより負に著しく大きくすることに成功した。今後、表面電位による抗菌性と細胞誘導性を評価することで、これらの特性に及ぼす表面電位の効果について明らかにする。
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