研究課題/領域番号 |
21H01648
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白岩 隆行 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10711153)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | AE(アコースティック・エミッション) / 疲労 / き裂進展 / 疲労き裂発生 |
研究実績の概要 |
2021年度はAE計測・その場観察システムの構築と、AEと微視変形機構の関係を評価するためのモデル材料の準備を進めた。できるだけ試験片形状・寸法に依存しないAE波形を得るために、試験片は基本的に丸棒形状とし、その両端にAEセンサを固定した。ただし、き裂観察面は平面になるように対称性を保って加工した。AEセンサには、増幅回路を埋め込んだ高感度・共振型のものを用いた。疲労試験中には様々なノイズが想定されるが、機械的ノイズは周波数フィルタにより取り除き、電源ラインからの電気ノイズは治具に絶縁板を取り付けることで遮断した。また試験片つかみ部からのAE信号は、試験片の外側に取り付けたガードセンサにより取り除くことを検討した。油圧式疲労試験機では、通常20Hz程度の周波数で試験するが、AE計測を精度よく行うために周波数についても検討した。疲労試験の周波数を変化させたときのノイズレベルを確認したところ、1Hzの繰返し荷重を正弦波で与えることで、比較的低ノイズ環境での計測が可能であることがわかった。き裂発生の観察には、レプリカ法では効率的にデータを取得できないため、試験機コントローラからのトリガ信号により駆動するマイクロスコープと自動ステージを用いて、試験片全面の表面観察を行った。また得られた広域高解像度の画像データに対して、デジタル画像相関法(DIC)を適用し、結晶粒スケールのひずみ分布を表示できることを確認した。組織が微細なチタン合金については、極薄い金薄膜(数10nm)をスパッタリングしたあとに、蒸気にさらすことで、サブミクロンスケールの島構造を形成し、DIC解析に用いた。この方法により、繰返し荷重によるき裂生成を明瞭に観察できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はAE計測・その場観察システムの構築と、AEと微視変形機構の基礎的な検討を進める予定であった。繰返し荷重の周波数とノイズの関係を調査し、その他にノイズ対策を進めることで、計測システムを構築することができた。AEと微視変形機構の基礎的検討については、モデル材料として純アルミニウムの押出材と鋳造材を準備した。それぞれの材料について、組織観察・結晶方位解析を行った。転位挙動とAEのRMS電圧を結びつけるために、離散転位動力学(DDD)シミュレーションを用いる方法を提案し、2022年3月の金属学会にて発表した。また検証材料として、バイモーダル組織やフルラメラ組織などのTi-6Al-4V合金、純Mg、市販Mg合金AZ31(Mg-3Al-1Zn mass%)について準備を進め、それぞれの組織観察や結晶方位解析を完了した。AE計測も開始しており、データ同化手法の適用について2022年3月に学会発表した。基礎的な検討は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
AEと疲労過程の基礎的な検討をさらに進める。本研究で用いる金属材料のAE源としては、き裂先端のすべり変形・双晶変形、主き裂の進展、き裂閉口、主き裂周辺の微視割れなどが考えられる。これらを明らかにするため、まず、各材料の微視組織を光学顕微鏡やSEM-EBSD装置により定量化する。試験片の破面観察や、途中止めした試験片の内部き裂をX線CTにより観察する。またき裂周辺の結晶方位解析を行う。以上の計測結果とAE解析結果を比較することで、AE源を特定することを試みる。例えばTi合金では、き裂周囲の結晶方位解析を行うことで、き裂発生と進展初期のモードIIき裂(微視組織的微小き裂)からモードIき裂(長いき裂)への移行が観察される。この変化点とAE解析から求められた変化点を比較し、分割されたステージごとに、AEの発生タイミングと破面観察・組織観察結果を比較し、AE発生源を考察する。Mg合金では双晶により大振幅のAE信号が検出されることがわかっているため、繰返し変形中の双晶の生成・消滅挙動をEBSD解析や中性子回折などにより定量化した結果と、AEの発生タイミングを比較する。
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