研究課題/領域番号 |
21H01651
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸田 恭輔 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20354178)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 共晶複相材料 / 異常強化現象 / 力学特性 / 構造・機能材料 / 強化機構 |
研究実績の概要 |
次世代の超耐熱構造材料として有望な遷移金属シリサイド基一方向凝固(DS)共晶材料(共晶温度:1900℃以上)では,構成元素である遷移金属元素の一部を二種類以上の他の遷移金属元素で同時に多量置換した際に特異な強化現象を発現することを見出した.本研究では強化に有効な添加元素の種類と添加量の系統的な探索,組織的特徴のキャラクタリゼーション,マイクロ機械試験法などを駆使した力学特性評価を通じて,対象とするDS共晶材料の特異な強化現象の発現メカニズムを解明すること,さらに高温高強度化に適した合金設計指針を確立することを目的としている.令和3年度はまず遷移金属元素TMとしてMo, Nbからなる合金系ならびに,Mo, Nb,Taとさらに1~2種類の元素を等原子量ずつ含む合金系に対してTMSi2-TM5Si3二相共晶組織が得られる合金系の探索を行った.また一部の合金系について一方向凝固材の育成と相構成および微細組織のキャラクタリゼーションを行った.さらにTMSi2-TM5Si3二相共晶合金の構成相のうちC11b型TMSi2,C40型TMSi2, D8m型TM5Si3の塑性変形に関する基礎的知見を得るため,これらの遷移金属シリサイドの二元系合金について系統的にマイクロ機械試験法などを駆使した活動変形モードとそれらの臨界分解せん断応力の同定を行うとともに,同定した変形モードの一部について,透過電子顕微鏡法による転位組織の観察,第一原理計算による一般化積層欠陥エネルギーの評価を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mo-Nb-Si三元系では,Nb/(Mo+Nb)比で0.05~0.8の幅広い組成範囲においてC40相とD8m相の二相共晶組織の形成を確認した.これらの知見をもとにC40相とD8m相の二相共晶合金の一方向凝固材を作製し,その組織的特徴の組成依存性を調査したところ,合金組成によらず凝固方向に対してC40相とD8m相のc軸が平行となるのに対して,凝固方向に垂直な方向に対する結晶方位は合金組成に依存して変化することがわかった.このような結晶方位関係を示す原因について,二相間の格子整合性の観点から理解できることを明らかにした.また4ないし5種類の遷移金属元素を等原子量ずつ含む合金系については,今回調査を行ったいずれの合金系においても3相以上の相が共存を確認したが,構成相の組成分析結果をもとに二相共晶組織形成の可能性のある合金組成の候補を複数見出した.単結晶マイクロピラー試験法を用いた二元系C11b型TMSi2,C40型TMSi2, D8m型TM5Si3の室温塑性変形挙動の調査では,C11b型MoSi2,C40型TMSi2(TM=Cr,V,Nb,Ta)について室温で活動可能な変形モードおよびそれらの活動のための臨界分解せん断応力のサイズ依存性の同定に成功したが,D8m型Mo5Si3は室温で塑性変形を示す前に破壊することがわかった.今回調査を行った二元系C40型TMSi2のうちCrSi2のみが高温においてシンクロシアー型転位の運動によりすべり変形することが知られていたが,室温では他のC40型TMSi2と同様に単一のすべり面上での拡張転位として運動するという変形モードの遷移現象が生じていることを明らかにするなど,様々な基礎的知見を得た.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果により,4ないし5種類の遷移金属元素を等原子量ずつ含む合金系ではいずれにおいても二相共晶組織を得ることができなかったため,今後は遷移金属元素の合金組成を等原子量から変化させた合金系についても調査を進めるとともに,今年度は調査を行わなかった組み合わせの遷移金属元素合金からなる合金系についても調査範囲を拡大して調査を進める.またこの際には2種類の金属間化合物相のみからなる共晶合金の育成は非常に困難となることも予想されるため,その際にはあらたにTM-TM5Si3二相共晶合金の可能性についても検討を進めたいと考えている.さらにこれまでに調査を行った合金系も含めて,比較的大きな単相領域が得られた構成相については,マイクロ機械試験法を駆使した力学特性の調査を進め,複相合金の変形機構理解のために不可欠な構成相そのものの力学特性に関する基礎的知見を得る.昨年度に一部着手した二元系C11b型TMSi2,C40型TMSi2, D8m型TM5Si3中で活動する変形モードに関する透過電子顕微鏡法による転位組織の観察,第一原理計算による一般化積層欠陥エネルギーの計算を通じた理論的検討を,未着手の変形モードに対しても行い,構成相の変形機構の解明を進める.
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