研究実績の概要 |
本研究の目的は我々が開発した高強度鋼の社会普及に向け必要不可欠な,高強度化・延性発現機構の裏付け,すなわちメカニズムの理論的解明である.この目標達成に向け本年度行った研究の概要,成果は以下のようにまとめられる. *これまでに我々が独自開発したFe-0.7C-2.0Cr-0.25V(mass%)基本合金系をベースとし,主構成元素であるC, Cr, V量を変化させた数種の鋼材,さらに新たにNb, TiB, Al, Siなどを微量添加した鋼材を作製し,その力学特性を室温引張試験,シャルピー試験により評価した.この結果,各鋼材の特性は我々がGBA,FMと命名した最終熱処理条件に依存してそれぞれ異なる特性を示すことが見出され,各鋼材に対し最適な熱処理条件がそれぞれ存在することが見出された.最適な条件を選択することで,多くの鋼材で100 J/cm2以上のシャルピー衝撃値,2000 MPa以上の最大強度を引き出せることが明らかとなった.ただし,適切な熱処理を選択しないと特性が出ない鋼材種が存在することも同時に見出され,Nb, Tiといった元素添加により新たに形成される炭化物の形態,特性,分布制御が極めて重要であることが示唆された. *放電加工による引張試験片作製の際,オイル中,水中の違いにより破断伸びが変化することが見出され,水素脆化が破断伸びに大きな影響を及ぼしていることが明確に示唆された.ただしここで大変興味深いことに,この水素脆化の程度は,上述の各鋼材組成,また引張ひずみ速度により,その程度が大きく変化することが見出された.この挙動変化を系統的にまとめることにより,水素脆化の発現機構解明,またその抑制が合金組成,組織制御により達成され得る期待が新たに見出され,現在更なる検討を進めている.
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