研究課題/領域番号 |
21H01652
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
萩原 幸司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10346182)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 鉄鋼材料 / 超高強度 / 延性 / 靭性 / 組織制御 |
研究実績の概要 |
我々が開発した高強度鋼の社会普及に向け必要不可欠な,高強度化・延性発現機構の裏付け,すなわちメカニズムの理論的解明に向け検討を進めている.本年度は特に,本鋼材の長期使用における信頼性確保に重要な水素脆化に対し開発合金が示す挙動を明らかにすることを目指し検討を進めた.行った研究の概要,成果は以下のようにまとめられる. *Fe-0.7C-2.0Cr-0.25V(mass%)基本合金について,引張変形挙動のひずみ速度依存性について詳細な評価を行った.この結果,ひずみ速度を増加させるにつれ破断伸びが増加する傾向が見出された.この要因として,引張試験中における水素の拡散が伸びに影響を及ぼしている可能性が示唆され,本合金の伸びが水素脆化挙動の影響を受けていることが示唆された.ただしここで注目すべきことに,この水素脆化挙動は熱処理条件,合金組成(C, V, Cr)により極めて幅広い変化を示すことが見出された.すなわち,適切な組成,組織制御により,水素脆化挙動を高いレベルで制御できる可能性があることが初めて明らかとなった. 一般に鉄鋼材料における水素脆化発現の起源として,格子脆化機構,水素助長局所塑性変形機構,塑性誘起空孔形成促進機構など,幾つかのモデルが提案されているが,本材料がどの機構に強く支配されているのか,また上記組成,組織制御がどのように水素脆化抑制に寄与するかついて,現在さらに検討を進めている.具体的には詳細な破面観察,ならびに水素脱離試験による固溶水素の安定性評価を行うとともに,TEM観察,SEM-EPMA分析を活用した炭化物の詳細解析も現在進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画を超えるペースで,加速的に研究が着実に進捗しつつある.具体的に,上述した以外にも,多くの鋼材種における引張,シャルピー試験の実施を進めることで,ニューラルネットワークを用いた機械学習を実施するための数十種の合金に対する基礎力学,組織学的データ取得が完了した.このことから,現在既に統合的データ解析を開始しており,最終目標である,著しく優れた力学特性発現の支配因子を計算,実験の両面からの解明を実現すべく,着実に研究が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
上述のように優れた力学特性発現をもたらす熱処理,合金組成制御の最適解がこれまでの研究により明らかになりつつある.この点を踏まえ,本年度は具体的に以下のような研究を推進する.
*水素脆化の更なる制御に向け,本年度着目した基本合金に含まれる以外の元素,すなわちC,V,Cr以外の元素添加による特性向上の可能性について検討する.またこの際の組織変化についても着目し,水素脆化挙動の発現,制御メカニズムを基礎的観点から明らかにする. *昨年度から開始されているニューラルネットワーク法に基づく機械学習について,実験データをさらに追加するとともに,制御因子の最適化(追加,もしくは削除)を行う.これにより最終的に,引張,シャルピー衝撃値に対し各制御パラメータが及ぼす「影響度」を明らかにするとともに,高い影響度を発現する因子が実際にどのような機構により影響を及ぼしているのか,理論的観点から考察を行うことで,最終目標である本合金の高強度化・延性発現機構の裏付け,すなわちメカニズムの理論的解明を実現する.
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