研究課題/領域番号 |
21H01665
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅原 優 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40599057)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水素侵入 / 水素マッピング / 鉄鋼材料 / 大気腐食 / エレクトロクロミズム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、エレクトロクロミック特性を有する酸化物薄膜(例としてWO3)を用いた材料中の水素分布の高位置分解可視化モニタリングシステムを確立すること、そしてこの水素検出システムを用いて、鋼材への水素侵入に及ぼす材料因子、腐食因子の影響を解明することである。その目的を達成するため、本モニタリングシステムの課題である位置分解能の向上に取り組んだ。Fe/Pd/WO3界面のTEM観察から、Fe/Pd界面に存在するFe空気酸化皮膜が水素検出の位置分解能低下の原因であることが示唆され、この酸化皮膜を成長させるとさらに位置分解能や応答性が低下することが分かった。そこで、このFe空気酸化皮膜を取り除いた上でPd極薄膜を生成させる手法の開発に着手した。結果として、適切な熱処理を加えること、もしくはめっき法による成膜によって、Fe空気酸化皮膜のないFe/Pd界面を生成することに成功した。しかし、熱処理法では、熱酸化を抑えるためPdを厚膜にする必要があり、水素検出における位置分解能や応答性の向上は見られなかった。一方で、めっき法では、Pdの膜厚にややばらつきがあったため、位置分解能の改善には至っていないが、条件によっては水素検出に対して非常に高い応答性を示すことが分かった。今後、めっき法の最適化を図ることで、位置分解能の向上を目指す。 また、大気腐食環境での水素侵入モニタリングに本手法を適用するため、中性溶液で不安定なWO3に代わる新たな水素検出のための酸化物の探索を開始した。中性溶液中で安定であり、エレクトロクロミック特性を示す酸化チタンTiO2を用いて、鋼材へ侵入した水素を検出することに成功した。また、TiO2薄膜による水素検出はWO3を用いたときと比較して、可逆性に優れていることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で取り組んでいる材料中の水素分布の可視化モニタリングシステムの課題である低い位置分解能は、Fe/Pd界面に存在するFe空気酸化皮膜が原因であることを明らかにし、Fe空気酸化皮膜のないFe/Pd界面を生成することに成功した。当初計画していた無電解めっき法ではうまくいかなかったが、熱処理法や他のめっき法を見出し、遅れることなく順調に研究が進捗している。 また、TiO2を用いて鋼材へ侵入した水素を検出することに成功した。TiO2は大気腐食環境で化学的に安定であると予想され、本手法を用いた大気腐食環境での水素侵入モニタリングへの目処が立った。このTiO2薄膜による水素検出は、WO3を用いたときよりも可逆性に優れており、次年度以降に取り組む予定である繰り返し応答性を付与することにもTiO2の適用が有望であることが想定され、この点では予想以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、本研究で取り組んでいる材料中の水素分布の可視化モニタリングシステムの課題である低い位置分解能は、Fe/Pd界面に存在するFe空気酸化皮膜が原因であることを明らかになり、Fe空気酸化皮膜のないFe/Pd界面をめっき法で生成することに成功した。そこで、このめっき法の課題であるPdの膜厚のばらつきを改善するため、めっき浴やめっき時間などの条件を最適化し、めっき前の前処理の検討を行う。本手法の位置分解能をさらに向上させるとともに、腐食によって鋼材へ侵入する水素の検出と、水素の拡散に及ぼす結晶粒界の影響について本手法を用いて解析する。 また本年度には、TiO2を用いて鋼材へ侵入した水素を検出することにも成功した。WO3からTiO2に変わることで、応答性や可逆性などの水素検出に関する特性が変化したため、他の水素検出物質となり得る酸化物の検討を進める予定である。酸化モリブデン等のエレクトロクロミック特性を有する酸化物が候補である。また、膜厚を制御するなど、水素検出特性向上に向けたTiO2膜の最適化にも取り組む。
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