研究課題
整合析出物を利用した高速押出し用マグネシウム合金の高強度・高延性・低異方性の同時発現を達成するために、微細結晶組織と弱い底面配向を同時に実現可能な材料として、Mg-Ca-Mn合金を設計し、押出し加工後の引張・圧縮特性および組織因子を評価した。また、提案者がこれまでに開発した高速押出し用Mg-Al-Ca-Mn合金の特性・組織も評価し、新しく設計した材料との比較を行った。既存マグネシウム合金押出し材では、引張特性と圧縮特性に大きな差異が生じることが問題となっていた。特に圧縮特性(圧縮降伏応力と圧縮破断ひずみ)は低く、衝撃吸収部材としては使い難いとされていたが、新しく開発したMg-Ca-Mn合金押出し材中では、既存材料とは異なる弱い底面配向と微細な結晶粒径が形成され、引張特性と圧縮特性の差異が解消されることがわかった。特に、開発合金の圧縮破断ひずみは30%に達し、従来合金の2倍以上の数値を示すことを明らかにした。提案者がこれまでに開発したMg-Al-Ca-Mn合金でも、異方性の解消は課題となっていたが、熱処理によって押出し加工直前の析出組織を制御することで、底面配向および結晶粒径を制御できることを実証し、Mg-Ca-Mn合金と同様な組織因子を付与することに成功した。一方で、Mg-Al-Ca-Mn合金の場合には、組織制御後でも、優れた圧縮破断ひずみを付与することはできなかった。引張試験および圧縮試験途中の組織変化を結晶方位解析および結晶塑性シミュレーションにより調べたところ、アルミニウムレスのMg-Ca-Mn合金では、非底面すべりが活動しやすく、異方性の解消に重要な役割を持つことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
高速押出し用マグネシウム合金の高強度・高延性・低異方性を同時に達成し得る合金として、Mg-Ca-Mn合金を提案した。開発した材料は、マグネシウム合金押出し材特有の課題とされていた引張特性と圧縮特性の異方性が無く、さらなる高性能化を進めることで、自動車の衝撃吸収部材としての活路が見出せると考えられる。Mg-Ca-Mn合金押出し材の特徴的な点は、その底面配向である。マグネシウム合金押出し材の異方性は、底面が押出し方向に平行に並ぶことで、応力負荷方向が変わるとすべりや双晶の活動度が大きく変化することに起因しており、高性能化に向けて底面配向の解消は必須であった。特殊な展伸加工プロセスによって底面配向制御は可能とされていたが、大型化の難しい場合が多く、単純な押出しプロセスによる組織制御が望まれていた。本研究では、工業操業上、汎用的に使用できるプロセスのみを用いて、底面配向を十分に制御できる合金の提案に成功しており、マグネシウム合金の実用化拡大に向けた大きな前進と言える。さらに、学術的な貢献として、マグネシウム合金押出し材の異方性に及ぼす合金元素の影響も明らかにした。最近のマグネシウム合金開発では、アルミニウムとマンガン添加による結晶粒径の微細化が盛んに進められている。また、提案者も明らかにしたように、微量なアルミニウム添加は強度特性の改善に有効であるものの、本研究の成果として、アルミニウム添加により、非底面すべりが生じ難くなることが明らかとなった。この結果は、高性能・展伸用マグネシウム合金開発に際して、重要な合金設計指針になると期待されることから、提案研究は順調に進展していると考えられる。
2021年度の研究成果として、高速押出し加工後でも微細な結晶組織を維持し、弱い底面配向を達成できる材料であるMg-Ca-Mn合金を提案しており、異方性低減に必要なメカニズムも明らかにした。2022年度以降は、本系合金の一層の結晶組織の微細化を進め、開発合金の有する優れた延性や圧縮破断ひずみを維持しながらも、強度特性向上を達成できるような合金組成・加工熱処理の最適化を行う。具体的には、まず、Mg-Ca-Mn合金の押出し性に及ぼすカルシウムおよびマンガン添加量の影響解明を行う。本系合金の結晶組織の微細化を達成するためには、マグネシウムとカルシウムより構成される析出物や、マンガンを主成分とする析出物が欠かせず、添加元素量を増やすにつれて、析出物量も増え、結晶組織は微細化することが予想される。一方で、添加元素量が増えると、押出し加工性が低下する可能性もあるため、高速での押出し加工を達成できる最大の合金元素添加量を検討する。合金選定の際は、熱力学計算も援用しながら、低融点化合物および粗大な初晶化合物の形成しない組成範囲を選定する。合金選定後には、押出し加工前の熱処理条件を変化させて析出組織観察を行い、析出物のサイズと量を系統的に変化させた材料を作製し、押出し加工に供する。また、押出し温度も変化させ、結晶組織や底面配向に及ぼす析出組織と加工温度の影響を明らかにする。押出し材の引張特性や圧縮特性を評価するとともに、電子顕微鏡や電子線後方散乱回折法を利用して組織観察も行い、高性能化に必要な合金とそのプロセスを提案する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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