研究課題
高い熱安定性、機械強度、化学安定性を誇るSiCを加工することは極めて難しい。これに対し我々は、SiCの格子欠陥生成を定量的に制御することにより、電気化学活性を著しく向上させ、陽極酸化により表面の加工が可能になることを見出してきた。本研究ではSiC結晶の対称性の破れがもたらすと考えているSiCの活性化について、格子欠陥生成と格子振動の選択励起によって活性化機構の解明を目指すことを目的としている。更に、SiC酸化反応にH2Oが必須であることに着目して、超高濃度水溶液を使う自由水の濃度制御法を活用し、陽極酸化により得られる表面構造の制御を目指している。本年度は、まず最初に格子振動励起に着目してSiCの活性化に取り組んだ。SiCの格子振動のTOモードとLOモードに対応する波長の中赤外自由電子レーザーをSiCへ照射することによって電気化学的な活性が得られるか検討した。評価はSiCの陽極酸化により実施した。その結果、LOモード励起ではSiCの酸化が促進されないものの、TOモード励起では表面の酸化反応が促進されることが明らかとなった。TEM観察の結果から、TOモード励起では積層欠陥が照射領域にのみ選択的に形成され、その部分でSiCの酸化反応が促進されることが明らかとなった。一方、濃厚電解液を用いた陽極酸化にも取り組んだ。SiCを濃厚LiCl水溶液中で陽極酸化すると、極めて凹凸の少ない均一な酸化皮膜がSiC表面に形成されることが分かった。通常の希薄水溶液では表面の欠陥サイトで陽極酸化反応が速く、表面が凹凸になる。一方で、濃厚電解液を用いると表面欠陥サイトでの陽極酸化の反応速度が著しく低下し、その結果表面全体で均一に酸化皮膜が得られることを明らかにした。これらの検討のほか、ポーラスSiCを金属めっきで充填して複合材料を形成するための新しい電析プロセスに関する研究も実施した。
1: 当初の計画以上に進展している
自由電子レーザーを用いた格子振動励起に関する検討は開始後1年に満たないにも関わらず、その活性化機構を明らかにして論文発表に至った。また、濃厚電解液を用いた陽極酸化でも、その特徴を把握して均一膜厚の酸化皮膜が得られることをいち早く見出して論文発表に至った。これらの結果は当初の想定をはるかに超えており、計画以上に進展していると判断できる。
初年度に得られた知見をもとにより精密な表面加工を達成すべく、各々の検討課題についてより詳細な調査を実施する。イオン照射による格子欠陥生成の検討では、欠陥生成の条件と陽極酸化によりえられる表面形状との相関を明らかにする。また、自由電子レーザーを用いた格子振動励起では、照射スポットをより微細化し、微細パターン形成が可能か、積層欠陥の形成範囲と照射スポットサイズの相関を明らかにしつつ検討する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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