研究課題/領域番号 |
21H01675
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐々木 泰祐 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主幹研究員 (30615993)
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研究分担者 |
塚田 祐貴 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (00620733)
Bian Mingzhe 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (30848320)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / べークハード性 / 析出強化 / 強度 / 成形性 |
研究実績の概要 |
本研究では、我々が世界に先駆けて開発したBH型マグネシウム(Mg)合金におけるBH 性の発現に及ぼす添加元素種や添加量、強化メカニズムに関する詳細な検討を進め、Mg 合金におけるBH性の学理の解明に取り組む。 前年度までに、Zn添加量を系統的に変化させたMg-Zn-Ca圧延合金を作製してBH性の評価を行ったところ、Zn添加量が3wt.%程度の希薄合金のみならず、時効処理によりβ’相が析出する高濃度合金もBH性を示すという、当初予想していなかった結果が得られた。 2022年度はまずこの点に注目し、Mg-5wt.%Zn合金やMg-9wt.%Al合金において、時効析出挙動におけるひずみ導入の影響を調べ、ひずみの付与に伴って過剰空孔が導入されれば、通常の時効処理中にG.P.ゾーンが析出しないこれらの合金にもG.P.ゾーンが析出することを明らかにした。 さらに、BH性の発現メカニズムについてもさらに詳細な検討を進めた。Mg-Zn-Ca圧延合金は、2%の引張ひずみを導入した後の時効処理(BH処理)によって、G.P.ゾーンの析出と溶質元素の転位芯への偏析がZn濃度によらず生ずる。一方、BH処理による強度の増分は、Zn添加量が増加すると減少する傾向にある。そこでフェーズフィールド・転位動力学計算により転位芯への元素偏析による強度の増加量をシミュレートしたところ、希薄合金のようにCaとZnが共偏析した場合と、高濃度合金のようにZnが偏析した場合で大きな相違はなかった。したがって、BH性の大小にはG.P.ゾーンの組成が決定的な影響を及ぼし、高いBH性を実現するにはCaとZnが濃化したG.P.ゾーンの形成が極めて重要であることが明らかになった。 以上の結果から、2022年度までに優れたBH性を発現するマグネシウム合金の設計指針を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度以降、研究終了までに下記の研究を行うことを当初の目標としている。 ①新規BH型Mg合金の合金設計指針の提案 ②新規BH型Mg合金の試作による材料設計指針の有効性の実証 一つ目の合金設計指針の提案に関する研究については、当初目標としていたBH性に及ぼす組成の影響を系統的に調べることができ、BH性の大きさに対する合金組成と微細組織の影響を詳細に明らかにして、Mg合金のBH性の学理の構築と優れたBH性を発現する合金設計指針を提示することができた。したがって、合金設計指針の提案に関する研究は、当初の目的を達成できたと評価している。 一方、材料設計指針の有効性の実証については、計画に先行して材料設計を進め、これまでに開発したBH型合金に比べても優れた特性を有する合金の開発に成功しつつある。本年度は、機械学習を利用したプロセス条件を最適化の有効性を検討しながら、当初の目標を満足する高強度構成形成合金の開発に集中して取り組める状況にあるため、順調に進捗していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに種々の組成を有する時効析出型マグネシウム合金のベークハード性の評価を行い、塗装焼付処理により大きな強度の増加が期待できる合金は、強化相としてG.P.ゾーンが析出するMg-Ca-X系の希薄合金であることが明らかになった。そこで2023年度は、このMg-Ca-X系の希薄合金にフォーカスした研究を進める。 まず、いくつかのMg-Ca-X系合金を作製し、優れた成形性を発現させる上で有望とされる、Mgの(0001)面の配向度が低く、10μm程度の結晶粒よりなる組織の形成を目指す。その際、合金元素として、Caに限らず、たとえば希土類金属などマグネシウムよりも大きな原子半径を有する合金元素についても検討対象として加える。試料作製、特性評価および組織解析を行う際、優れた室温成形性の発現が期待できる組織とその形成プロセスを機械学習により予測できるか否かを検討し、その知見をフィードバックすることで成形性をさらに向上させるための組織とプロセスを提案することもすすめ、プロセス最適化に向けた機械学習の有用性を実証する。特に、極めて高い成形性を発現する試料については、EBSDで成形加工前後の集合組織を、TEMで変形組織を解析して特性発現機構を解明し、6000系Al合金を凌駕する特性を発現する材料の開発を目指し、当初の目標特性を発現するマグネシウム合金の開発を目指す。 溶体化処理材: エリクセン値 8.5 mm以上 BH処理材: 引張試験で-250MPa以上の0.2%耐力 (なお、BH処理は、引張試験で2%の引張ひずみを導入後、時効処理を170℃で20分行う。)
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