研究課題/領域番号 |
21H01676
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
大沼 郁雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 上席研究員 (20250714)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 結晶粒界偏析 / CALPHAD / 熱力学・拡散データベース / 鉄鋼材料 / 銅合金 / アルミニウム合金 / 格子欠陥 / 核生成・析出 |
研究実績の概要 |
鉄鋼材料をはじめ各種構造材料において,溶質元素や不純物元素の粒界偏析が材料の組織と特性に多大な影響を及ぼすことが知られている.粒界偏析に起因する構造材料の組織と特性を制御するためには,ランダム粒界に加え小角粒界や対応粒界等の低エネルギー粒界における多種元素の偏析挙動を定量的に予測する必要があるが,現時点で実現されていない.本研究では鉄鋼材料,Al基およびCu基各合金の多種類の偏析元素を対象に,(1)複合偏析の相互作用効果,(2)結晶粒径,(3)粒界エネルギー,(4)転位密度および,(5)粒界・転位偏析の温度依存性を考慮して,CALPHAD法を援用した偏析濃度計算システムを構築し,実験結果と比較してその精度を検証する. R4年度は銅合金の熱力学・拡散データベースを用いて熱力学計算ソフトウェアのThermo-Calcにより計算されるCu母相と粒界相の自由エネルキーと,Cu母相中の偏析元素の拡散係数を,アプリケーション・プログラミング・インターフェースのTQ-Interfaceを介して,本研究で開発を進めている粒界偏析計算プログラムに取り込み,多種類の微量偏析元素を含有するCu中における熱処理温度と熱処理時間を考慮した多成分系複合偏析計算システムを構築した. CuにNiとSi等を添加したCu-Ni-Si合金は高強度と比較的高い導電性を兼備するコルソン合金として実用に供されている.R4年度に構築した銅合金の粒界偏析計算システムを用いて,Cu多結晶材料中のNiとSiの偏析挙動を計算した結果,Siは単独でもCuの結晶粒界に偏析するが,Niは単独では偏析しない結果が予測され,一方,NiとSiを複合添加したCu-Ni-Si3元系合金ではNiが顕著に偏析するようになることが予測された.この結果はコルソン合金中のNi2SiあるいはNi5Si2金属間化合物の選択的析出の組織制御を示唆する結果と考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,(1)鉄鋼材料,(2)Cu基合金,および(3)Al基合金の三種類の構造材料における微量添加元素・微量不純物元素の結晶粒界への偏析濃度を,熱力学計算・拡散計算を援用して数値計算する独自の粒界偏析計算システムを構築することを目的としている。R4年度は,銅合金における粒界偏析濃度の計算プログラムの開発に取り組み,多成分系の母相(fcc-Cu)と粒界相の自由エネルギーを銅合金の熱力学データベースから計算プログラムに導入する手法に加えて,拡散データベースを利用して各偏析元素の母相(fcc-Cu)中の拡散係数を計算し,熱処理温度と熱処理時間を考慮した粒界偏析計算を実現した. 特に,R3年度までに熱処理の温度変化に対する母相結晶粒界への添加元素の偏析濃度を計算するシステムを構築したが,R4年度は温度一定の条件下で熱処理時間の経過に伴う偏析濃度を予測する計算アルゴリズムを考案し,fcc-Cu中のNiとSiの偏析挙動に適用した.コルソン系合金の基本組成の1つであるCu-1.6Ni-0.35Si(mass%)合金において,熱処理温度を400℃と450℃の2水準でNiとSiの偏析濃度の経時変化を計算した結果,fcc-Cu中のNiとSiの拡散係数の違いにより,熱処理初期は偏析濃度(原子分率)がx(Ni)<x(Si)であり,3600s経過後は400℃でx(Ni)≒x(Si),450℃ではx(Ni)≒1.5x(Si)と温度の違いにより濃度が逆転する.この結果は,温度の違いによりコルソン系合金の熱処理時に核生成する析出物種が変化しうることを示唆している. 以上のように,計算システムの開発と実用合金への展開がおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
R3年度に研究対象とした鉄鋼材料,R4年度の銅合金に加えて,R5年度はアルミニウム合金における粒界偏析計算システムを構築する.アルミニウム合金の熱力学データベースを援用して計算できる母相(fcc-Al)と粒界相の自由エネルギーと,拡散データを用いて計算できる偏析元素の拡散係数を,粒界偏析計算プログラムに取り込んで,アルミニウム合金において熱処理温度と熱処理時間に依存する粒界偏析濃度を計算する. 本研究の粒界偏析システム構築の目的の一つに,溶体化および時効熱処理における格子欠陥への添加元素の偏析から,アルミニウム合金の強度を発現する析出物の核生成・成長への進展を予測して,最適な熱処理条件を設計することを掲げているが,粒界偏析計算モデルをアルミニウム合金中の積層欠陥や転位への偏析モデルに拡張し,格子欠陥偏析システムを構築する. 鉄鋼材料,銅合金,アルミニウム合金のそれぞれにおいて,溶質元素が結晶粒界や格子欠陥に偏析し,粒界あるいは欠陥中の固溶度以上に濃化した結果,偏析濃度に応じた粒界析出あるいは格子欠陥を起点とする不均一核生成が生じることが予測される.最終年度となるR5年度においては,平衡計算から予測される粒界中の溶質原子の固溶度を計算システムに取り込んで,粒界・格子欠陥への溶質原子偏析から核生成・析出に至る計算システムの構築を最終目標とする.
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