研究課題/領域番号 |
21H01678
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
竹田 修 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60447141)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイクロアロイング / スカンジウム / 母合金 / 熱還元 |
研究実績の概要 |
本研究では,アルミニウム(Al)-マグネシウム(Mg)-スカンジウム(Sc)母合金の効率的な製造を目指して,ScCl3のMg熱還元法を開発する。ScはAl合金の特性を飛躍的に向上させるが,商業的に利用可能な濃縮された鉱床が存在せず,資源供給がほとんどなかった。しかし,近年,ニッケル(Ni)製錬の技術革新によってSc2O3が副産物として大量に供給可能となり,Scの資源供給ポテンシャルが急増した。このSc2O3を原料として,Al母合金の大量生産・高速度製造に適したMg熱還元法を開発する。Al-Mg-Sc合金を低コストで供給することで輸送機器の劇的な軽量化に寄与し,CO2発生の大幅な低減に資する。 令和4年度は、合金系の熱力学的性質(相平衡)の研究を実施した。具体的には、実験報告が存在しないAl-Mg-Sc三元系の1000℃における相平衡について、令和3年度に検討した組成域を拡張して探査した。まず,化学平衡法を用いて,Alリッチ側におけるAl-Mg-Sc系の等温相平衡(1000 ℃)を探査した。特に注目したのは、この系で重要な金属間化合物であるAl3ScとAl-Mg-Sc液相を含む平衡である。このAl-Mg-Sc液相中のSc平衡濃度が母合金中のSc許容濃度を決める。MgとScのモル比、1:1および3:1の組成の相平衡を系統的に調査した。その結果、液相中のSc濃度は予想よりもかなり低かった。これは、Mg源として純Mgを装入したため、十分な量の液相が形成されなかったためであると推察された。精密決定のために、今後、Al-Mg母合金を装入する。また、Scイオンを含有する溶融塩をAl-Mg合金で還元する実験、および、ScイオンとAlイオンを含有する溶融塩をMgで還元する実験を行い、後者において、Al-Mg-Sc合金が生成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の遅延の理由の一つは、コロナ禍の影響により実験のための活動時間がある程度制限されてしまったからである。また、もう一つの理由は、金属マグネシウムの蒸気圧が高く、反応系外から散逸し、溶融混合が十分に進展しなかったためである。さらに、金属マグネシウムの表面に形成されていた自然被膜が混合を阻害したことが考えられる。よって、今後、平衡組成の精密決定のために、Mg源として、純Mgではなく、Al-Mg合金(20 mass% Mg)を装入する。Al-Mg合金は溶融温度が低いため、Mgの蒸気圧が低い温度域から溶融を開始し、AlやScとの接触、混合時間が十分に確保され、均一な融体を形成すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、ScイオンとAlイオンを含有する溶融塩を金属Mgで還元することで、Al-Mg-Sc合金が生成した。一方で、Scイオンを含有する溶融塩をAl-Mg合金で還元することではAl-Mg-Sc合金は生成しなかった。これは、還元剤(Al-Mg合金)の表面に固体のAl3Scが生成し、反応障壁として作用したためと考えられる。ScイオンとAlイオンを共還元することでAl3Sc形成の問題を回避できることがわかったため、令和5年度は共還元によるAl-Mg-Sc合金の形成に注力する。特に、溶融塩中のScCl3濃度が形成合金中Sc濃度に与える影響について系統的に検討する。 役割分担としては、合金系の相平衡の実験、分析は代表者が担当する。合金形成の実験、分析を研究協力者の大学院生が担当する。熱力学的諸量の解析は,代表者も協力する。結果の評価については,代表者が所属する研究室の責任者である研究協力者の朱鴻民(東北大学大学院工学研究科教授)と共に議論し,指針の評価,改善を行い,基礎検討にフィードバックすることで効率的に研究を推進する。本研究は,溶融塩化物を扱う高温プロセスであり,加熱用の電気炉は既に整備済みである。一年目に研究を加速させる電気炉を購入できたので、それを利活用する。また,溶融塩系の実験は反応容器が特殊であるため,専用の反応容器を自作する。装置の設計は代表者が行い,資材を購入して学内の技術部(製作室)で製作する。
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